兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



私小説
~説明~
萌兄の私小説

第五章、家庭の洗濯機⑥

 お待たせしました。と店員が、ビールとサワーを各二本運んできた。僕らは直ぐにビールに口をつける。
 「昔見た、ドラマの台詞だけど、一緒に焼肉を食べに行くカップルってもう一線を越えてるらしいよ。」
 「あたしたちはカップルじゃないし。」最もな話だ。

「くーっはぁーっ。やっぱビールは最高だなぁ。」さっきの話をもう彼女は忘れているような口ぶり。ビールの前では、どんなことも上の空だ。
喉にビールを流し込む。重力の法則に従って、冷たい歓喜が喉を伝って落ちてゆき、いの中で安定した寝床を探しパチパチいいながら膨れてゆく。
安定というと聞こえはいいけれど、早い話が止まってしまうだけだ。
死もこの上ない安定だ。この世の万物は常に物理法則にのっとって、安定への道をひた走る。ヤカンから出た水蒸気は、常温の水にほっておけば戻りたがるし、持ち上げたリンゴも、手を放せば床に落ちる。
 人間の体なんて、結局、死という甘美な誘惑にに勝てない。でもきっと僕らは将来的にこの体に勝てなくなる。それは老親や死人を見れば一目両全だ。
でもそれはあんまりにも癪な話だ。それでも僕は勝てないって知っている。だから、僕じゃない誰かに、この戦いを続けてもらいたいのだ。戦い続けさえすれば、もしかしたら、いつか勝てるかもしれない。
 そして、もし、僕の後継者がそれに負けないでいてくれたら、こんなうれしい事は無い。
 
そう、それが親になるって事なんじゃないだろうか?でも、家庭を作るって言うのはカンタンだけど、具体的に親になるって大変な事だ。特に女性は・・・僕は一昨年、急性腸炎で倒れて救急車で運ばれた事がある。言葉にならないほどの下腹部の痛み。きっと、出産はこんなもんじゃない!
 そうか、男が子供を埋めない理由が始めて解った。男は出産の痛みに耐えられるように出来ては居ないのだ。
 そして、その痛みを知らないから、大好きな女性に自分の子供を産ませるようなマネが出来るのだ。
 そう、加害者という認識の無い加害者は、加害者にもなり得ないのだ。
 でも、全ての母親が被害者だとすれば・・・いや、しかし被害者の意識がない人間が被害者でないのもまた事実といえるだろう。それでも、どっちにしろ、女性は妊娠中は酒が飲めないからそれは不便だね。

 サワーを舐めていると、残りの注文の品も程なくテーブルに運ばれる。メイドさんは上手に鶏肉と豚バラを網に乗せて、僕らはそれを眺めながら、スープを啜る。
 肉と米とキムチとビールの配分を考えながら僕らはそれらを胃に流し込む。僕らは常連だからこういうのは慣れている、会計まで一括りで、もうプログラム化されているのだ。



8月27日(月)00:47 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第五章、家庭の洗濯機⑤

僕はそんなものが家庭ならば、そんなもの例えば将来、大人になっても作りたいとは全く思わなかった。
 でも、最近淋しくて仕方ないのだ。高校生や大学生の時のような、孤独とは全く違う孤独。それが孤独といえるかどうかさえ解らない。体温が欠如してしまっているような感覚。少し怖くなる事もある。
 個人差はあるかも知れないけど、ある程度の歳に成ると三人称としての家庭でなくて、自分の所有格としての家庭を作りたくなるのは、こういう寂しさのせいなのかのしれない。

そうさ、人間なんて馬鹿馬鹿しいほど自分の意思に忠実ではいられないもので、学生の時分などは恋人がいないと不安になり、社会に出ると配偶者がいないと不安になってしまう、さらに結婚すると子供がいなければ不安だし、子供が出来たって、子供が中々結婚しないと不安なわけで、そんでもって、子供が無事結婚しても、孫が生まれない事にはその不安は解消しないわけで・・・ 結局、人は遺伝子に刻まれた種族保存の本能に絶えず不安感を与えられて、動かされて続けているだけかもしれないね。
いつも理性的にあろうとしたって、それはこういった野生的な不安に絶え間なく攻撃され続けて、ボロボロになって理性が上手く働かなくなり寄る辺無い気持ちになると、人は恋とかそういう麻薬に漬け込まれてしまうんだな。
恋は盲目ってよく言うけれど、盲目だから、地面にぽっかり開いた穴に気づかないで落ちてしまうんだな、その底がどこに繋がっているのか僕は知らない。ただ、その出口を桃源郷と呼ぶには、ちょっと調子がよすぎると思うけど。

結局、恋愛と結婚は全く別の話のなんじゃないかな、だから、子供を作ることも、もしかしたら、そういったものとは全く別の問題で・・・性欲によるセックスと生殖のためのセックスと愛情表現としてのセックスは、もしかしたら、同じ性でも、全く別のもので、愛や恋が関係しないのなら、僕ら二人にだって出来るかもしれない。

 「君の言うことを総合すると結婚相手とのセックスは、生殖のためだから、子供が出来た後は、セックスしなくなるって事でしょ。」そっけない態度だ。やはり、メイドさんにはその気はないらしい、どちらにしろ、僕等が恋人同士になったり、家庭を作っつたりするのは考えづらい。でも、家庭ってなんだろう?
 普通の夫婦が僕の両親のようなものなら、普通でない家庭の方が、いいのかもしれない。
大丈夫、僕は結構変わり者らしいから、普通の家庭はきっと作れないと思う。だから心配なんかしなくたっていいと思うのだ。

だからこそ、夫婦ではなく主人とメイドという間柄で子作りをするという逸脱の行為は僕にとって興味深いのだ。いや、それ以前に、異性に対して出不精の僕は色々言い訳を作って、近場の異性、つまりメイドさんで目的を果たそうとしているだけなのかもしれないけれど。



8月24日(金)09:00 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第五章、家庭の洗濯機④

「男性的な考えだな。」
 「そりゃそうだろう。僕は男だから、仕方ないさ。」
「仕方ないんだ?」と何か諦めたようにメイドさん。タレを混ぜる手が止まる。
「でも、そうかもしれない。日本的な結婚って、就職活動そのものかも、だって昔の農家の嫁なんて、相手の家の労働力兼、子作り担当主任みたいなものだもの。愛なんて二次的なものかもしれない。」

 愛か・・・愛ってなんだろ?恋はした事あるから解るけど、愛は良くわからない。恋の進化系が愛なのか?よく恋は自分本位のもので、愛は相手本位のものだと言うけど、そんな工場で大量生産されたような、安っぽい理由でいいのかな?

 「愛と恋の話なんて・・・私たちはそういうこと語り合う関係じゃないな。」なかなか酒も肉も来ないので、退屈に成ったのかメイドさんはあくびを一つした。
「そうだね」と僕。「ここは話を戻して、もう少し結婚について考えてみようか。」メイドさんもそれなら付き合わなくはないといった表情。

そういえば先月、実家に帰った時、母親に妹の事について相談された。母は、半年に一度ハンドバックを新調し、三ヶ月に一度、トートバックを買い足す人だ。そんなに早いペースでは無いけれど、彼女の鞄は増えていく一方だ。
 両親の夫婦仲は、そんなに良くも無いし、そんなに酷くも無かった。父親は仕事が忙しく、あまり家に寄り付かなか無いくせに、四人兄弟の末っ子だったから、甘えん坊で、年長の叔父や叔母などの親戚にの前では頭が上がらなかった。それで母親もそんな父親に少し愛想を尽かしていた。依頼心が強くて楽するために結婚をした母親にとって、結婚後に発覚した、そういった父の本性は契約違反もいいところだったのだろう。そう、さっきメイドさんの言ったとおりでお互い何かしらの打算を持って結婚するのは、本来好ましくない事なのだろう。
まあ、そんなわけで母は相談事は父でなく僕にしてくるのだ。

母親は就職したばかりの妹の勤務時間が長いのに、配属先が遠いから家に帰るのは遅くなり、出る時間も早いから、疲れていないか心配だと零した。僕が見る分に、妹はそれでも何とか社会人として強くやっていこうと頑張っているように見えたから、別に其処まで心配しなくてもいいじゃないかと宥めたが、母は結局僕に「そうかもしれないけど、親の立場から見てると心配で心配で、」と繰り返した。
一応、僕も適齢期の男性の端くれだ。知り合いの中でも結婚したり、子供を作ったりしている人の話も聞かないではない、まだ生まれてこの方、恋人も出来た事の無い、家庭を作りたくてもまだ見当も付かない、少し出遅れを自覚している独身男性に『親の気持ちになって考えて欲しい』だなんて残酷な事(母親は僕がメイドと暮らしている事を知らない、知っていたとしても、僕とメイドさんはそういう関係ではないので、関係はないのだが)、よくも言えるなと思ってしまった。
 でも、そんな事思っても、そこは「実家」で両親のテリトリー、一応大人しく聞き役に徹し、先月の帰省は父が仕事で出張し、妹も仕事で夜遅く寝に帰ってくるだけだったから、僕はずっと母親の愚痴を聞いて、年々健康のために薄口になる、お袋の味を噛み締めるだけで終わった。
ここまでの話だとまるで冷え切った夫婦や家族に聞こえるかもしれないけど、家庭自体は時々波乱はあるけれど、だいだい通常通りの運行が繰り返され続けている。

 平坦な、冷えて落ち着いた日常が続いていくのだ。



8月23日(木)01:04 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第五章、家庭の洗濯機③



 連休も最終日、店内に客は疎らだ。その殆どが子供ずれの夫婦だった。僕らは、豚バラの五百円のランチ二人前と鶏肉のプレートと、そしてビールとサワーのタダ券で、アルコール飲料を四本頼んだ。
 周りの家族は子供を囲んで、楽しそうに焼肉を焼いている。そんな中、二人きりの僕らはまるで出来損ないの大人みたいだ。『家に帰ればちゃんと人形とはいえ娘がいるんですよ』と言い訳しようと思ったけれど、まだ子供の娘を置いて二人で焼肉屋に酒を飲みに来る夫婦もやはり出来損ないといえるだろう。
隣に座った家族の女の子が、こちらに振り向いてニコニコ笑って手を振った。三歳児くらいだから、何があっても楽しいのだろう。
「休みの日はやっぱり家族連れが多いな。子供は可愛いよね。」
「子作りでもしたいんですか?」
「産んでくれる?」
 「ちゃんと育ててくれる?」
「自信ないな、今の子供たちって大変じゃないか。小学生でも塾通い、一日12時間学習は基本らしい、過労死する子供も出ているそうだし、塾に行くのが嫌なら、カップルになって路上で遊びまわって性病を移しあうか、ぐれてバイクに乗ったり万引きするしかないからね。今じゃ引きこもって何もしない子供が一番健康だって話さ。」
「じゃあ、子供が欲しいだなんて、同居してる異性に言うべきじゃないね。」
「別に僕はそういうつもりで言ったんじゃなかったんだよ、子作りだけならサルだって出来る。僕は人間だからね、こういう風景見せ付けられると、結婚してみたくなるよ、だって結婚は契約だからね、契約は人間にしか出来ない高尚な事さ、子作りとは訳が違うんだ。」
「結婚ねぇ、ピンとこないな。」メイドさんは小皿を取って、それにタレとにんにく、コチュジャンを盛って混ぜ合わせている。
「そんなものかい、もっと憧れとかもってるのかと思ったよ。だって大体、結婚って女性のものだと思ってたからね。だって結婚がテーマの小説は殆ど女性が書いたり主役だし、マリッジブルーも女性の物だし、結婚式だってしたいと思うのは女性の方でしょ。だから、時々僕なんて、男の目線から結婚とか考えるとどうなるかなって考える時あるよ。」
 「ははは、彼女も居ないのにそんな事考えてるの、笑っていい?」どうやら僕は馬鹿にされてるらしいな。でも、メイドさんが大きく笑うと、その豊かな乳房が揺れるから、それを眺めるとなんとも言えない穏やかな気分になって、怒りなんて忘れてしまう。
 「笑ってもいいよ。この前僕の同期入社の女性なんかは、『結婚なんて大したイベントじゃない』とか言ってたけれど。イベントって祭りだろ、祭りは日常ではないから、つまり時間軸でいう『点』てことでしょ。でも僕は結婚ってのは日常、つまり『線』だと思うんだよね。」
「なるほど線か・・・日本のさ、結婚って打算的だから駄目。家事してもらおうとか、旦那の給料で暮らしたいとか、老後見て欲しいとか、そういうふうに楽出来ると思って結婚するから、楽できないと嫌ん成っちゃって、相手の事も好きでなくなったりするんだと思う。」
 そうかもなと僕。
みんな小さい頃は、誰でも出来ると思っている結婚、確かに結婚の内実は誰にでも出来るような事だと思う。
 でも、結婚にまで至る道は、結構な難易度だ。まず好きな人を探して、その好きな人に他に好きな人が居ないか、既婚かどうか調べたり、その人が、自分のことが好きか訊いてみたり、両想いだと解っても、デートという面接を繰り返して、それが上手くいったら、最終面接、相手の親に会って挨拶しないとならない。結婚って就職活動に似ている。

 そうそう、ちゃんと就職活動しないと、いざ入社してから、その会社と自分がミスマッチだと気づいて、嫌な思いしたり、直ぐ辞めたくなったり。



8月22日(水)09:15 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第五章、家庭の洗濯機②



週末のお昼は、よくメイドさんと焼肉を食べに行く。ビールとサワーのタダ券のある焼肉屋に。昼間から飲むのは僕らにとっては結構普通の事だ。
 僕は飲酒運転をした事が発覚したら、大変なことになる職業だから、僕らは其処に歩いていく、徒歩で十五分位だろうか、こんな具合に、僕らは週末二人で歩くようにしている。といってもウォーキングというほどのものではなくて、今向かってる焼肉屋や近くのスーパーとか八百屋とかカラオケ店ぐらいまでだけど。
 それに、飲酒運転の防止という理由だけが僕等を歩かせているわけじゃない。
僕自身ただ理由も無く歩くのはどちらかといえば嫌いだ。時間がかかるし、疲れる。歩くぐらいなら、自転車に乗った方がずっと速いし疲れない。移動に使用する時間は少なければ少ないほど合理的というものだ。
 でも、僕は何か目的地を目指して、一歩一歩いていくのは嫌いじゃない。
 歩いて目的地に近づいている時、僕は僕の意思で死と戦っている気がする。この世の万物は何一つとして、安定を好まないはずは無いのだ。そしてそれは僕の体を構成しているたんぱく質も同じ。たんぱく質は分解されて、原始の海に帰ることを望んでる。

 僕の体は僕の死を望んでいるのだ。

 だから、僕にとって最大の敵は僕の体だ。その体の思う壺にならないように僕は歩いて、体を運動エネルギーと位置エネルギーで一杯にしようと努力している。
 でも、歩くだけでは、とてもじゃないが退屈だ。だから目標として目的地が必要だし、連れがいればなお退屈しないし、こういうことをぐちぐち考えているうちに、大抵目的地の目の前まで来ているのだ。



8月21日(火)22:32 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理


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