兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



私小説
~説明~
萌兄の私小説

第三章、『TV泥棒』①

スーパーマーケットで、発泡酒の淡麗生500缶と、銀嶺立山の普通酒の五合瓶、豚バラ300グラム、白菜、豆腐を籠に入れる。落ち込んだ時ほど、家事というものは心に優しい作業だとつくづく思う、特にアイロン掛けなんて、最高に心が落ち着くものだ。
そうだ、僕は昔からちょっとナイーブすぎるところがあるのだ。なんと言うか傷付きやすいというか、何でこんなことで一々ショックを受けるのかなって、あとで考えると笑ってしまうことばかりなのだ。そう思うと、さっきまで何故泣いていたのかも、すっかり忘れてしまった僕だった。

刺身コーナーにたどり着く、せっかく日本酒を買ったのだから、刺身も欲しいところだ。店員が「本日特価、白子はいかがですかーっ!」と特価品を並べながら、威勢良く売り込みをかける。
僕は常々思うのだけれど、女性で白子の刺身が好きという人は結構多いように思うが、魚の白子といっても、あれはれっきとした精巣だろ、抵抗は無いのだろうか。僕なんか同じ精巣を保有する生物として、申し訳なさと背徳感からああいったものを口にすることが出来ない。
しかし物は考えようだ、世の中には性行為時に、口内射精された精液をそのまま飲んでしまう女性も居るらしい。という事は、白子を好んで食べる女性にはそういった性癖がある可能性があるのかもしれない。

さて彼女はどうだろう?ふと僕の脳裏に、さっき財布を渡してくれた彼女の面影が浮かぶ。先に断っておくけど、別に何か期待しているわけではないのだ。ただ、女性一般について考えていたので、たまたま、最近ごく身近な異性になった彼女の事が気になっただけだ。
僕は白子の刺身の一番量の少ないパックを選んで、買い物籠に入れる。タダでさえこちらは負い目を作りすぎている。ここで少しぐらい彼女の秘密を暴いたとしても足らないくらいだ。

しかし、負い目といっても、まだ彼女に暴行したり、実害を与えたわけじゃない。汚れた衣服を洗うと言い出したのも彼女の方だ。『負い目』と思うこと自体、考えすぎかもしれない・・・いや、だからといって、『弱み』を握られた事には変わりないかもしれないじゃないか、今朝の姿はあまりにも情けなさ過ぎる。
しかも今、僕は彼女の財布を持っているのだ、彼女が僕を窃盗で訴え、白を切りとおせば僕は犯罪者の仲間入りだ。それだけじゃない、もっと最悪の事態だって考えられる。僕は曲がりなりにも自分の遺伝子の始末を彼女に委託してしまったのだ。今考えれば、今日の彼女は優しすぎるような気がするし、僕を追い出すために、財布まで持たせたのだ。
彼女は財布の中身以上のものを取り返せると踏んでいるのだ。もし下着にこべり付いた精液を採取され、それを悪用されたら、例えば彼女自身が僕の精液を、自らの手で胎内に流し込んで妊娠した場合。僕がどんなに弁解しても生まれた胎内の子供の遺伝子を解析されたらそれでお終い。強姦に対する賠償金か、はたまた育児のための養育費を求められるかもしれない。
どちらにしてもまた、僕は大きなピンチに立たされているという事だ。

僕は、歩みを速めた。もう家を出てから三十分以上経っている、もし僕の推理どおり、彼女が下半身裸になり、簡易的とはいえ人口受精(例えば採取した精液を注射器に詰めて膣内に注入するなど)に挑んでいるのだとすれば、もうひと段落着いてしまっている頃かもしれない、これでは今朝の悪夢と情況はなんら変わらない、むしろ、こちらの快楽が薄い分ずっと情況は悪い。聖母マリアは処女で懐胎したというが、僕は童貞で子持ちになるほど神聖な人格ではないのだ。
もし、彼女が僕の思ったとおりのことをしていたとしたら、逃げられる前に捕まえなければならない。
まあ、財布は僕の手の中にあって、都合がいいことに身分証明書も入っている。だから逃げられたとしても、ある程度探す事は出来る。
しかし、僕には悠長に彼女を捜索する余裕など無いのだ。受精する前に何としてでも産婦人科に付き合ってもらわなければならないのだから。



8月2日(木)08:59 | トラックバック(0) | コメント(1) | 私小説 | 管理

第二章、『脱皮』⑤



はっとして、目を覚ます。彼女はまだ仰向けの僕を見下ろしている。「やっと、起きた、凄い汗。チャイム鳴らしても出ないから合鍵で入らせてもらった。」彼女は洗面所にタオルを取りに行った、もう、あの着ぐるみから着替えて普段着になっている。マラソン大会の後のように、全身に乳酸が溜まったようにだるくて動く気がしない。
タオルを持って帰ってきた彼女は、僕の額を拭いて、「着替えも出すから。」と言って、自分の部屋の箪笥のように迷い無く僕の着替えを選んでゆく。どうやら、留守にしたときに案の定、あさられたらしい。でも今は逆に都合がいいけれど。
着替えを用意し終わると、彼女は僕の顔に続けて首筋、胸元と拭いてゆく。「さあ、そろそろ起きて。」と彼女は布団を剥ぐと、彼女は妙に困った顔をして動きが固まった。彼女のこんな面白い表情を見たのは初めてだ。そう思って笑おうとしたが、妙な悪寒みたいなものがする、少し起き上がると。パジャマは全体に湿気ているものの、股間の辺りだけ際立って濡れている。

「あっ、あの、お漏らしじゃないから。」僕は夢の中以上に混乱している。
「うん、解ってるから、心配しないで。」彼女はさも精一杯の笑顔という感じの表情で僕の目を見て、肩を擦ってくれた。
涙が出てきた、あんまりに情けなくて、馬鹿みたいで。「今、拭いてあげるから、その後シャワー浴びて綺麗にしよう。」僕はきっと耳まで真っ赤になってるに違いない。まるでこの異常事態が自分のものでないかのように、僕は僕を見ている。幽体離脱ってこんな感じなんだろうな。
「失礼します」彼女は看護婦のように、僕のパジャマを脱がせ、「シャワーあびてくるといい。」汚れたパンツい一丁の僕を浴室に誘導した。



シャワーの中でも泣きっぱなしだった。「着替え置いておく。」とドアの向こうで彼女。着替えを浴室の扉の前に置くと部屋に戻っていった。

シャワーから上がると僕はアイロンのかかったシャツを着て、恐々と部屋に戻る。彼女はパジャマやシーツ、タオル、そして洗濯籠の中で濡れたパンツを洗濯籠に運ぼうとしている最中で、僕を見るなり財布を渡して「何かお酒、買ってきて。つまみも作って欲しいから、材料もお願い。」と僕を外に送り出してくれた。



7月29日(日)10:29 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第二章、『脱皮』④



僕は寝つきが悪いほうだけど、その日は特に酷かった。明日、朝から何かしようと思うとこうなるのだ。
寝転がり続けて、早く意識が遠のかないか祈るだけ。一度トイレに行くために部屋の電気をつけた。午前二時過ぎになっていた。ため息をついてしまう、けれどもトイレから帰ると急激な眠気が僕を襲う。僕はいい気分になった。



また目が覚めた、まだ暗いから、あれから二時間もたってないのだろう、ガッカリする。暫く寝転がり目を瞑ってみたが、一向に眠気が襲ってこない。僕は夜の長さにうんざりしたけれど、そのあともっと深刻な事態に襲われる。

背後から、かさこそ、かさこそと、布の擦れ合う物音がする。僕は金縛りにあったわけでもないのに、振り向く事が出来ない。事態が予想できたからだ。
現在製作中の人形は、今は言ってしまえば、ばらばら死体の状態だ。それが動き出したのだ。そんなわけ無いと頭でわかっているのに、頭の中に鮮明な画像が浮かび上がるみたいに、予想できてしまう。
いや、こんなことは非科学的だ。哲学をやっている僕が合理的でなくてどうする。振り向けば、振り向いてみてやりさえすれば、そんな幻想消えるに違いない。見ないから無いという決定が出来ないのだ。
見てやりさえすれば・・・でも、もし見てそれが本当におこっていたら、僕は逃げ場を失ってしまう。でも、怖くても、いや、怖いから見ずにはいられないのだ。

僕は目を瞑ったまま振り返る。先ほどの物音はもう無くなっている。ははは、賭けは僕の勝ちのようだ。そして勝利宣言のため恐る恐る目を開けた。
僕は驚愕した。人形は出来上がっている。しかも僕等が作っていたのはせいぜい子供のサイズほどのものだったのに、普通の人間の大きさぐらいになっている。

裸で横たわる女性型の人形は、まるでダッチワイフみたいだ。

そう思うと、怖さが吹き飛んだ。童貞とダッチワイフは永遠の共犯関係だ。僕は彼女に近づいて抱きかかえる。生暖かく柔らかい感触、しかも重さも人間並だ。しかし表面の手触りや質感はまるっきり布だ。
きっと寝ぼけて神経が混乱しているのだろう。そして僕はそんな都合のいい彼女を自分のベットに寝かせた。こう見ると、以前合っていたメイドさんに凄く似ている、それと同時に彼女に合っていた頃は凄く前のことに思える。

気分が悪くなりそうだが、これでやっと僕は彼女の密室で塞がれた情事に介入する事が出来るのだ。彼女の大き目の乳房を両手で鷲摑みにする。素晴らしい感触だ流石、高級な低反発ウレタンを切り出して作っただけはある。明日、製作者に礼を言っておこう。
乳房を揉むのに満足すると、今度は彼女に四肢を絡ませ抱きついた。すると僕はもう我慢できなくなって、パジャマのズボンをパンツごと下ろす。入り口を探しに、彼女の下半身に目をやると、先ほど作られた女性器よりも数段リアルなそれが目の前に現れた。しかも人形くせして濡れている、僕はもう止まらない。
考えてみてほしい、人間の愛なんて情熱や性欲やに左右され、期間制限付きの仮初のものだ、でもコンクリートや鉄、シリコンやゴムはどうだ、建物は無償で僕らを雨風から守り、支えてくれるし、車のゴムタイヤは磨り減って自らの体がボロボロになるまで僕らの足になってくれる。そうさ、彼等の干渉の無い、奉仕の精神こそ本当の愛だ。
相手がダッチワイフなら、相手が無機物なら、こんな僕にも無償の愛を向けてくれているはずだ。

そうさ、愛という言い訳があれば人は何でも出来るものだ。その証拠に街の人間どもは、セックスしたいがために恋人を作っているじゃないか。そいつ等に比べれば僕はどれだけ純粋か。
僕は何のためらいも無く、避妊具もしないで、彼女を突き刺した。中はとても柔らかく暖かい、我慢はしたが直ぐに破裂してしまった。

そのまま二人は抱き合ったままだった。いつの間にか彼女の方が上になっている。女性というのはどんな状態でも強かなものだな。
彼女の髪を撫でる。とても愛らしい、頭頂部のつむじ付近、何か金属製の小さな板みたいなものが指に触れる。なんだろうと思い摘んで動かしてみると、彼女の髪の分け目、首筋、背骨、尾骶骨のラインに沿ってスライドし下ろすことができる。どうやら僕が摘んで動かしたのはファスナーの枝らしい、一番下まで降ろされたファスナー、昆虫の脱皮のように、背をのけぞらせ布製の古い皮膚から抜け出してきたは、一緒にこの人形を作っている彼女。道理でここまで暖かくて軟らかい訳だ。

ああ、これじゃ、本当に思う壺じゃないか、美人局に引っかかったのか、強姦罪で脅迫されるのか、それとも妊娠を理由に慰謝料だろうか?もう、どっちにしろ遅すぎる。

リーン、リーン、リンリン、美人局の相手役がやってきたのか、それとも警察のサイレンか、堕胎のための救急車か?電子音はしばらくなり続けると止んだ、しかし、だからなんだというのだ、もうどうにもならない、「ねえ、起きて」気ぐるみから出てきた彼女は、そう言った。もうとっくに起きてるさ、起きて君と抱き合ったじゃないか、「ねえ、大丈夫?」平気なはずが無いよ「ほんとに起きて!」



7月28日(土)09:19 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第二章、『脱皮』③



次の日、彼女は九時半には、僕のところに来た。僕は朝飯の最中で、彼女は食卓のもう一つのイスに腰掛ける。僕は留守番にあたって、部屋の設備について飯を食いながら説明し、外出時はこれを使いなさいと合鍵を渡した。
「帰りは夕方六時過ぎかな。」
僕は朝食を終えると、そそくさと出かける準備(通帳と印鑑やを鞄に入れることのは、もちろん忘れない、パソコンにはプロテクトもかけてある。)をする。これで別に盗られたり見られたりして困るものも無くなった。決心をつけて出かけることにする
 
「いってらっしゃい。」久しぶりにそんな挨拶をされた。



学校の帰りに、友人のKが久しぶりに飲まないかと誘ってきたが、今日はそうは行かない。「今、彼女が家に来ててね。」と言うと、どんな冗談さと笑って「いつもそっちが強引に誘ってくるっていうのに、金欠か?」と茶化してくる。まあ、確かに財布の中の残金は恐ろしく少ないから、そう思われても一向に差し支えないのだけれど。「すまんね。」と言って家路に着く。

Kはとても淋しそうで、今にも吹き飛んでしまいそうだった。でも大丈夫、彼は僕が一緒に飲んでやらなくたっていいぐらい無駄に顔は広いのだから。



 下宿先のアパートの自分の部屋に近づくにつれ、洋風な鍋物のような香りが立ち込めてきている。匂いの発生源はどうやら僕の部屋らしい。
「ただいま。」
「お帰りなさい、ご主人様。」ドアを開けて、僕は己の目を疑った、彼女はメイド服を着込んでいたのだ。
紺色の水玉のワンピースにフリフリエプロン、頭にはヘッドドレス、おまけに手にはお玉まで、完璧にメイドさんの外見になっている。
僕は心の中が、急に照明で照らされたような感覚反面、ああ、またエプロンに皴が、アイロンをかけるのに一時間以上かかるんだよなと現実的なことも考えてしまう。

そう、それくらい現実味のあるメイドさん、喫茶店にいるメイド服のウエイトレスや、テレビアニメのものとは天と地ほどの差があるリアルさだ。
「着てみたよ。こういうのが結構好きなんだあたし。だから誤解しないで、君と交配したいわけじゃない。」
「ああ、構わないよ。僕も君と交配したいわけじゃないから。でも、エプロン洗濯したら、アイロンは自分でかけてね。」
二人は意味も成しに、少し笑った。夕食はジャガイモたっぷりのポトフで、それだけで満腹になった。「今日は、あなたの型紙で、腕、作っておいたから。」と彼女はベットの上に投げ出した、日本の小さな腕を指した。青いシーツの上に肌色の腕二本は、気持ちが悪いくらいに目立つものだった。

夕食後しばらく僕らは片づけをした、連日の作業で部屋は少々散らかっている。「後で着替えるから、浴室貸して。」と彼女。貸さなければ、彼女は着替えられず家からも出られない、女性と一夜を供に出来るなと思ったが、以前失恋した時に、泣き言を聞いてもらいに女友達に夜中ずっと傍にいてもらったことも同時に思い出す。
あの時は、夜中飲んでアニメ見て、それだけだった。僕にはロマンスは似合わないらしい。まあ、それならいいさと僕は彼女に浴室を快く貸してやった。
浴室に彼女が入り、着替えを始めたのか布がすれる音がする。僕はそれを聞きながら無意識に「まだ人形は完成していないのだから、チャンスなら何時でもある」と考えていた、「一体何のチャンスだっていうんだ!」僕は自分が自分で恥ずかしくなり本当にやる気がそがれていくような心持になった。



次の日、授業は午前中だけだったので、彼女にも午後から来てもらった。二人で牛どん屋の弁当を、かっ込んで作業を開始する。今日、彼女は「尻の曲線を出すパーツを作る」と言うので、僕は足を縫う事にした。二人は黙々と作業を続け、夕方前にはそれぞれの目標まで製作は終わり、服以外の全てのパーツがそろった。ここからは各パーツを繋げるだけだ。
「ここからは、二人で分担できないから、帰っていいよ。」と僕が言うと「駄目、あなたは洋服の型紙でも作って、私は胴体の仕上げをしたい。」と彼女はパーツ同士をつなげるベースである胴体を僕から奪ってしまった。これじゃ、言われたとおり型紙でも作るしか他に無い。
「この子は女の子なんだから。」と呟いて、彼女は人形の胴体の股間に、女性性器のような窪みを縫ってゆく。特に恥ずかしそうな表情はしないから、なんだか僕の方が、恥ずかしくなる。
女性というものは、どうして性に鈍感なんだろうか?

彼女はそれを、縫い終わると、「じゃあまた明日。」と言って立ち上がる。「今日はメイド服は着なかったね。」と僕が冗談を言うと、「明日は着る。」と彼女は答えた。
明日は各パーツの組み立てだ。人形作りの山場だ。彼女も朝から着て作業をしたいという。だから僕も明日は授業も少ない事だから、思い切って講義を自主休講して、人形作りに専念しようと考えていた。



7月27日(金)09:43 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第二章、『脱皮』②



次の日、朝一番の大学の講義から下宿に戻った僕は、玄関前に立ち尽くす彼女を見つける。今日は昨日よりも少し楽な格好、ワンピース姿だ。紺色でもエプロンをつけても居ないのが何とも惜しい。

「おはよう、来るって言ったのに居ないから、困ってたよ。人形は進んでる?」と悪びれる様子も無く彼女は言った。どうやら、そんなに待たせたようではないらしい。下手に仮を作るのは危険だから、これからはもっと用心が必要かもしれない。僕はそんな計算をしながら、急いでドアを開けて、彼女の帰った昨日の午後に完成させた生首を掲げる。
人形の頭はだいたい子供の頭ほど、顔の輪郭を考えつつ、縫った肌色の袋に、綿を硬めに詰める。髪の毛のパーツも付けて、目や口、耳、首などのパーツも、もちろん既に装着済みだ。後はメイドさんらしくヘッドドレスを着ければいい。「意外と大きいな、もっと小さいの作るのかと思った。まあいいか、材料はこんなにあるし、じゃあ、あたしはそれを縫う。」彼女は肌色の生地を手に取ろうとしたが、僕は彼女に他の作業をしてもらうことに決めていた。
「いや、やってもらいたいのはこれじゃなくて、君にはこのウレタンを削って、乳の形を作って欲しい。」
「何で、」と彼女。僕は実際に女性と付き合った事も無いから、女性の体の服の下に隠された部分には詳しくないから作れないと説明すると、彼女は妙に納得したふうに、カッターナイフと鋏を持って、ウレタンを削り始める。僕はその様子を横目で観察しながら、胴体の製造に取り掛かる。
胴体はまず、人の胴体を正面から見た形で、厚い布を二枚合わせで袋状のパーツを作って、綿に布のハギレを混ぜて硬く整形する。それをベースに後から尻の膨らみを担当するパーツ、乳の膨らみを担当するパーツ、そして首や四肢をくくりつけ、最後に細かい部分を整形して、肌色の布をかぶせれば、裸の人形の完成。あとは専用の服を縫って着せてやれば立派な人形だ。

僕らは人形作りに熱中していたため、気づく頃にはもう午後二時を回っていた。
彼女はウレタン彫刻に苦戦しているため、僕は彼女から千円札を受け取って、僕がコンビニに行き、カップ麺とお握りを買って二人で食べた。「明日は、おでんがいい」と彼女が言うので、「明日も来るのか」と僕。今日は朝一番しか講義が無いが、明日は授業が結構詰まっているのだ。
「明日は、長く外出するから。」
「じゃあ、鍵を開けといてくれれば構わない。」
『その手には乗らない!』と喉まで出た台詞を僕は必死に飲み込んだ。ここで相手に不信感を与えるのは危険な事だ。しかしながら、このまま明日彼女だけこの家に残すわけには行かない。
彼女が疑いの通り詐欺師ならば、部屋の貴重品類が危険だし。そうでなくても、彼女には他人の部屋を探る癖がある。昨日、隠しておいたメイド服を見つけられてしまった前例があるし、こうやって姉が高額な商品を売りつけた家へ訪ねてきている時点で、姉の部屋にあるデータ関連のものを漁っているのは確実である。それは彼女が何かしらの、捜索本能を持っていることの明確な証拠だ。
さて、どうするか。痛くない腹を探られるのは、我慢なら無いことだが、だからといって、邪険に断るわけにもいかない。断れば絶対理由を訊かれるし、すると僕は嘘を付くのが嫌いなので、そのまま答えてしまうに違いない。そして僕の立場は更に悪化してしまう。

「どうかした?」
今の僕に出来るのは、ただ沈黙して作業を続ける事だけだ。
「私が信用できないのは解かってる。」
「君は学校に行かなくていいのかい?」図星の指摘に対する同様を勘繰られないために、わざと僕は話をそらした。
「一週間ぐらい行かなくたって、大学なんて平気。」
「僕は、大学を休むのが好きでないんだ。君もそんなこといわず、学校に行ったほうがいい。」
「優等生なのね。」
「まあ、これでも優秀な方かな。」
「信用できないなら、君が何か条件を決めてもいい。」

信用できない相手に条件を言ったところで、相手が信じられない以上、条件を遂行してくれるかさえわかったもんじゃない。しかし、向こうから曲がりなりにも譲歩している以上、何かしらのリアクションをしなければ、こちらが不誠実という事になってしまう。
沈黙という盾はもう既に奪われてしまった。
「いいよ、」以外にも先に口火を切ったのは彼女の方だった。「通帳でも判子でも、鞄に詰めていけばいい。でも、昼飯もあたしにたかるような分際の学生のそんなもの興味も無い。あたしはあたしの信念のためにここに来てる。姉が起こした事は私が収集つけないと眠れないから。それでもあたしが信じられないなら、吊ってある奴着てもいい。」と彼女は昨日の午後から人形のモデルとして、窓際に吊り下げてあったメイド服を指さした。

いよいよ、僕の立場は最悪の方向に転がり始めた。彼女がメイド服を着るという事は、昨日の僕らの会話を考慮すれば、僕らは抱き合う計算になる。抱きあうという事は、僕が完全に悪者になってしまう。いや、彼女の醜態をデジカメにでも撮って脅せば僕と彼女の力関係は逆転するが、彼女が恥に対して無神経なら意味を成さないし、それどころか警察に届け出を出されたら・・・それこそ終わりだ。法治国家で男ほど惨めな生き物は、誘拐されても窃盗罪扱いの爬虫類や魚類ぐらいなものだ。

「解った、別に着なくていい。明日は十時前に着てくれ、家に人が居ないのは、心配なんだ。留守番頼むよ。」
「ありがとう。」彼女は微笑んだ。僕は自分の無力さに呆れてしまった。彼女はそれからしばらくして、「乳を作り終わった」と宣言し帰っていった。彼女の切り出した乳形のウレタンは、とても愛らしい形をしている。彼女の乳房がモデルだろうか?

それを見ながら僕はなんとなく思う。きっと人は相手の全てを愛せないのだと、体の各パーツへのフェティシズムをパッチワークのように、繋ぎ合わせて、相手の全身を愛するなんて、きっと難しく体力も要る。それは人形を作る工程に何処と無く似ていた。



7月26日(木)21:14 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理


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