兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



私小説
~説明~
萌兄の私小説

第七章『闖入者、眼鏡と生理用品の行方』④

もう駄目だ、そう思ったそんな時、奇跡は起こった。何時の間にか彼女の足元に何か落ちていたる。それは白い紙か布で作られたような質感。大きさはそれほど大きくなくて、帯状をしている。そしてその中央には重症患者に巻いた包帯に滲んだ血のような文様が浮かんでいる。
そうだ、驚愕する事にそれは使用済みの生理用品だった。どうして落ちたのかは知らないが、ほんの少し前にはそんなものは無かったし、今この建物に存在する女性は、彼女だけだ。
 生理用品とは、しゃがんだり、立ったり、腰を振ったりを繰り返すだけで、股からずれて落ちるようなものなのだろうか?僕は気を使い、街で会社員が乞食を見て見ぬフリをするのと同じように視線を泳がせる。
 ダンスに熱中している彼女は、一分ぐらいの後にそれに気づいて、あわてて拾うとトイレに駆け込んでいった。それはいいとして、ナプキンの丁度中央の、小さい赤いシミの遠慮がちな小ささが、彼女の純潔を演出しているようでもあり、男を誘惑する淫らな武器のようにも思える。

 これはただの偶然か、それとも何かの信号か、信号とすれば赤い信号。あの時彼女の後を追って供にトイレに入って、事を済ませたほうが、良かったのだろうか・・・しかし、そんな逡巡も直ぐに終わった、さっきまでストリップショーを楽しんでしたKの顔は打って変わって青ざめてそれと同時にトイレに駆け込む、しかし悲しいかな、トイレはメイドさんに占領されているのだ。
Kはしばらくトイレのドアをノックし続けたが、ドアの向こうからは全く反応がない、どうせメイドさんがマスターベーションに夢中でそれどころではないというのが関の山だろう。しかしKの容態は一秒一秒崩壊に近づきつつある。ついに彼はノックをやめるとクルクルとその場を回り始める。
「はははははっ」先輩は、そんなKを見て大笑いする。僕の脳にも間もなくさっき飲んだウイスキーのアルコールが転送されてきたようだ、はははははっ歓声と供に僕の理性も吹き飛んでいく、先輩は一動作で飛び上がってKに襲い掛かり、彼のチャームポイントであるメガネを奪うとぼくの方に放り投げてくる、「メガネでバレーボールだ!」先輩のレシーブに僕はスパイクで返そうと思ったが、素面でもあまり良くはない運動神経が災いし、メガネは僕の肩に当たり、これまた運の悪い事に窓の外の闇に消えてゆく。

「わああ、辞めてくださいよぉ」Kは酔いと、裸眼ののせいでもう真っ直ぐ歩くことも出来ない、「よーし、捜索隊の出発だ!」先輩の掛け声と供に僕らは一同、闇に消えたメガネの捜索に外に飛び出した。



こっちの方だと思うんですがね、ほら家の窓があそこでしょ。「なんか光ってるぞ、あの芝の辺り。」「気持ち悪い、気持ち悪い」先輩がメガネらしきものを発見し走り出したのと、Kが側溝の上で戻したのはほぼ同時、Kが全て吐き終えると、先輩がすたすたと戻って「ほーら合体だ!」ふざけながらぐったり蹲るKにメガネをかけてやる。
Kはメガネが戻ると嘘みたいに生気が戻り立ち上がる「おおっ、復活だぁ。ならばいざ行かん。」先輩はKの手を引いて走り出す、Kは千鳥足でついていこうとするが上手くいかず、ホークダンスのマイムマイムの足取り。気分がよくなった僕もスキップしながら付いてゆく、少し歩いて駅の近くに焼き鳥屋があるんで、そこに行きましょうか、それとも牛丼にしましょうか?
透き通った夜の街、アルコール臭を放つ男三人は終電間際まで飲み続けた、そう思う、そうだその後、彼等を駅まで送って、それで僕は家に帰って・・・さあ、本当にそうだったのか、なんせ途中で記憶が飛んでもう飛んでしまって殆ど何も覚えていないのだ。

 そして、それが長い長い夢のような生活を締めくくるための旅が始まるのだった。



9月4日(火)09:33 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第七章『闖入者、眼鏡と生理用品の行方』③

「ほら、これがキミの性衝動さ、全くもって男子中学生なんかとは大違い、本当に体内でちゃんと精子作ってるのか心配になっちゃうな。」ふざけたような嘲笑の笑みを浮かべると、思った以上に鋭く見える彼女の犬歯が覗く。
「馬鹿にしないでくれ!」僕は思わぬ反撃によろめきながらも叫んだ。童貞も二十代中盤まで拗らせると、変な貞操観念が芽生えるもんなんだよ、別に性行為をしたいだけなら就職して経済的に困っているわけじゃないんだから、風俗に行けば済むことじゃないか、でも僕はあえてそれをしないのさ、処女に誇りがあるのなら、童貞だってここまで続ければ、立派な人間性を持ってくるはずさ。
「始めては、結婚相手か、本当に好きな人とじゃないと嫌ってか、ははは、童貞の癖して生意気な事ぬかすんじゃないよ!」
「止めてくれ、これ以上の侮辱はよしてくれよ本当にお願いだよ。」彼女の恐ろしい笑みは僕の懇願によってもまだ消えない、「さあ、他に何か言う事ある?あたしはキミの奴隷だからね、何でもしてやらなくはないんだよ、だって私たちにはもう立派な娘が居るわけじゃない、弟か妹を欲しがる年頃なのさ。」

「酔ってるんだよ、止した方が二人の為だよ、」
「二人の話しなんてしてないじゃないの、あたしは娘が兄弟なしじゃ可愛そうだっていってるんだ。」メイドさんは僕にくだを巻くようににじり寄る。何て困った酔っ払いだろう、さてどうしたものか。四面楚歌の中、僕は神の声を聞く、それは電話の呼び出し鈴だ。僕はこれ幸いと、すかさず席を立つと電話機を取った。



「もしもしぃ、おまえ今家に居るかい、駅で先輩にばったり会ってさ、皆で久しぶりに話でもって思って、もし良かったら、悪いんだけど、おまえん家よっていいかな?」それは僕の大学時代からの友人Kからの電話だった。情況が情況だし、最近お互いに忙しくあまり顔をあわせて居なかったので、僕はいいよ大歓迎だと二つ返事を返してなろべく早く来て欲しいと頼んだ。

彼等は、スナックやジャーキーなどのつまみを持参しやってきた。「お酒なら沢山有りますから、遠慮せずにどうぞ。」とメイドさんは笑う。僕もその笑みが元の彼女のものに戻っていたので胸をなでおろす。
「先輩は今どうしてるんです?」僕は大学時代の大先輩(僕が大学に入学した年には既に四年生で、卒業は僕と一緒にした、素晴らしい人だ。)に何気なく聞いた。
先輩はビールひと缶を一気に開けると、「特に変わらないさ、それより、お前にはメイドさんが居ていいな夜はもう凄いだろ。」と、ふざけ誤魔化したので、僕はまだ彼が定職についていない事を確信した。
 
「いえいえ、そうなんですよ毎日毎日本当に凄くて、もう妊娠しちゃいそうですよ。」あの凶悪な笑みは消えたものの、メイドさんもまだ酔っているらしい、「マジでか、そりゃひでえ話だ。」「お前、本当にそんなことしてるのか、犯罪だろ。」闖入者二人もまだ酒を飲み始めたばかりだというのに、中々危険なテンションだ。
「まあまあ、ご主人様は悪くないんですよ、男の方ですもの、仕方ありません。」そういいながら、彼女は先輩と友人Kのグラスに新しい酒をお酌して回り、彼等も本当に美味そうに、それを飲み干してゆく。
 「ははは、本当にいいメイドさんだよ、もったいないな、お前の独り占めなんて」さらに酔いが回ったのか先輩はメイドさんの腰を触りながら言った。腰を触るなんてまだ僕もしたことないこと、内心カットくるが、これも酔っ払いの戯言と高をくくっていると「もう、男の方は仕方ないんだから、お相手しましょうか?」メイドさんもまんざらでない様子。これはあまりにも危険だ、先輩には仕事も金も体重も無いが、端正な顔立ちだけはあるあれで女を泣かせた経験もあるのだ。

援護を頼もうと友人Kを見ると、彼もだいぶ酔っていて、もう寝てしまう一歩手前だ、強引に肩を揺すり起こすと、楽しそうにじゃれあう先輩とメイドさんを見て羨ましそうに近くに寄るが、何も手を出そうとはしない、昔からそうなんだ、奴は女の近くによっていっても、結局何もしない僕以上の晩生なのだ。
 おい、もう悪ふざけは止してくれ、これじゃ彼等が来る前より悪い状況じゃないか、いや嫉妬なんてしてないよ、でも、仮にも家族が酔った勢いで事にいたろうといているところをとめるのは普通のことだ、別にこそこそしなくたっていいじゃないか、「何か文句でもあるんですか、主人があなたみたいなEDだから、私の女の部分が満たされないんですよ、EDじゃなきゃ誰でも、あたしはかまいませんよ」「話が違いじゃないか、お前等夜は凄いんじゃなかったの?」先輩もメイドさんもひゃっひゃっ笑っている。「そんな話、どうだっていいじゃないですか、もう辞めてくださいよ、例え先輩だって我慢できない事だってあるんだ。」そんな僕らの今にも爆発しそうな情況の中、Kは何とか隙を見計らって、おどおどしながらメイドさんの二の腕を触っている。
「まあ、いいじゃないですか。」メイドさんは先輩とKの間の空間で腰をストリップショーの踊り子のように、捻り出した。闖入者達は笑ってそれを眺めている。何て酷い光景だろう、もうここは僕らの家ではなく風俗店になってまったのだろうか?僕はもうやけになりウイスキーをグラスに注ぎ一気に煽る。



9月3日(月)23:30 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第七章『闖入者、眼鏡と生理用品の行方』②

いや、待てよ、でも、やっぱりメイドさんは家族じゃないな。だってメイドさんだよ、使用人なんだよ、家族なんかであるもんか、家族じゃない以上、犯しても近親相姦にならい、昔の人は一つ屋根の下の異性と情事を図るためにメイドという職業を作ったのかもしれない。
 そう思うと、久しぶりに胸が躍る。虚勢処置をされたオス犬の性器が再び生えてきたような高揚感。さりげなくメイドさんに居近づき、肩を撫でたりしてみる、「ねえ、」声をかけられ動揺するものの、彼女は姿勢を全く変えず、まるで僕が触っている事に気づいていないかのように続ける「この光景どう思う?」そうだな、なかなかシュールに映るかもね、僕ら家族はとても個性的だから。そう考えると僕らは日々の生活でシュールレアリズム運動に奔走する生来の芸術家といえるんじゃなかろうか?
「シュールレアリストはリアリストよりも合理主義で、ニヒリストよりも理想家でなければならない」とメイドさんは答えた。なるほど、そうすると僕が大学で専攻していたマルクス主義とシュールレアリズムには、幾つかの共通点があるのかもしれない。
 しかし、共産党員でない、マルクス主義者達は愛が、自らの思想の前提になっているというが、メイドさん、君の思想は、いや、思想なんてこの際どうでもいい、君の心の根底には今どんな感情があるのかな?

 そして僕の心は、

 例えば、人が人形・・・ダッチワイフ等・・・に愛の告白をする事は、まさしく人類を含めた他の有性生殖をする生物に対する宣戦布告に匹敵する行為なのではないかという事。
 ならば、もし、この僕が、メイドさん・・・つまり、人ならざる奴隷に、愛の告白をするということはどんな事か・・・
「愛は絶望的な恋で、恋は理想的な愛なんだと思う。」と、いつかこの話をしようとしたときには、あからさまな拒否を見せたメイドさんから、短いながらも答えが返ってくる。
確かにそうかもしれない、でも突き詰めれば、愛も恋も単なる集団的な思い込みに過ぎないと僕は思っいる。相互的な麻薬生産者と麻薬消費者の関係に過ぎないんだ、みんなは、それをかっこつけて『愛』とか呼んでいるだけだ。

 どの道、僕ら二人が愛について語り合うなんてとんだお笑い種だ、僕らにあるのは契約と感傷ぐらいだろう、希望的観測をすること自体悲しい事だ。
 しかしだ、今僕を突き動かすこの感情(メイドさんを撫でる僕の手はその標的を、彼女の肩から髪に変え、更に耳たぶに至ろうとする、耳たぶは彼女の性感帯の一つに違いないのだ。)は一体なんなのだろうか?
僕の下半身は、あのはちきれんばかりに血気盛んな、中学生に戻ってしまったのだろうか?

今の僕をどう思うかとメイドさんに訊くと「男子中学生は性的なファシストであり、ファシストは本当の女性の前では中折れ」だと答えた。
 なるほど、これは興味深い。メイドさんとの会話は、なかなかの僕の財産かもしれないね。
 結局、男子中学生=性的ファシストの思想の根源には「自慰」にあるような、オナペットの昇華され、美化されすぎた性衝動とエロチズムの孕む背徳性のせめぎ合いというものがあるのかもしれない・・・いや、こんなどうでもいい考察はもう真っ平だ、今の僕の状態がどうかなんて関係ない、メイドさんを犯せれば、それでいいじゃない。
 そう、最低でも、メイドさんを犯せれば、僕がどんなに腹が減ったって、メイドの腹は膨れて行く、
 それを横目で見て、未来を探る。未来があると仮定する、未来になれば男子中学生もきっと、高校生くらいにはなれるんじゃないかと。

「キミの性衝動についての認識は甘いなぁ。」メイドさんは自らの耳たぶを恐る恐る撫でていた僕の手を掴むと、その手のひらを自分の胸の方に引き寄せる、僕は、自分でもわからないうちにとっさに彼女の手を振り払って、彼女の思惑を阻止していた。

ああ、いつかとまた同じことをしているな。



9月2日(日)01:23 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第七章『闖入者、眼鏡と生理用品の行方』①

最初から解っていたのだ何時かここを出て行かなければならないことは、だからこそここを選んだのかもしれない。
だって、きっと僕らは自分たちで自分たちの生活の終止符を付けられるほどの決断力を持っていないことを自覚していた。
自覚していたのに・・・それなのに、僕らは躍起になっていた。何とかして失った日常を取り戻そうとしたかったのだ、しかし、僕らの非日常は出会った日からずっと進行し続けていたのだ、その間にあった家族三人のの微笑ましいとはいえなくもない日常は単なる病気の進行を誤魔化すための麻酔に過ぎなかったのだ。
そう、僕らは全て解っているのだ、理解した上で、日常が死刑宣告を受けた後の世界で、再び日常を演じようとしているのだ。これは狂気だ、狂気は本当に美しいものだなと思えるのはこういう努があるからだ。

 「今日、何の日だか知ってる?」ビールを買出しに付き合わされて、疲れて機嫌の少々悪い僕は、あえて答えない。
「何、ふてくされてるさ、もしかして怒ってる?」
「怒ってなんて居ないよ、ただ疲れてるんだ。引越しの事とか考えると、どっと疲れが出るっていうのに、こんな重いもの持たされて(僕は500ミリリットル缶のビールワンケースを抱えている)本当に声も出したくないくらいに、疲れているんだよ。」
「引越しなんて今日はどうでもいいじゃない。それに君は酒屋じゃないか、これくらい軽いもんでしょ。」
「公私混同できる筋肉じゃないんだな。」
 「やっぱり怒ってる、あたしが誕生日忘れてたのがそんなに許せないのかい。」
「いや、今日は僕の誕生日なんかじゃないよ。それに誕生日忘れられたからって怒ったりしないさ、一人暮らしをしていた頃は、よく自分で自分の誕生日忘れてたもんさ。」
「馬鹿いっちゃいけない、君の誕生日なんかじゃない。君は自分の娘の三歳の誕生日も忘れてるのかぁ、呆れたもんだ。」

 そうか、あれから三年経つのか、本当のところ僕は人形が出来上がった日なんか覚えていなかったし、それ以前に今まで人形の誕生日なんてしたことないのだけれど、メイドさんの気迫に圧されてそう思うより他ない。
 「ごめん、ごめん、父親として最悪の失態だ、お詫びにケーキは僕が買おうじゃないか(といっても、家事をやってもらう代わりに食費は全部僕が出しているのだけれど)そうしよう、そうしよう。」
「ガトーショコラなら許そうかな。ちゃんとチョコレートが濃くてずっしり重い奴じゃないと駄目だからね。」

僕がケーキ屋から戻ると、メイドさんと人形はリビングで準備完了の様子。もう待っていられないという感じで、ビールの蓋を開け、「乾杯しよう、はやく乾杯しないと、ビールが一秒一秒、不味くなっていってしまう。」僕も全く同感なので、手洗いうがいを素早く済ますと彼女と二人で命の水にありついた。

僕らはケーキを箸で突付きながら、ウイスキーを飲んでいる。きっと来年の誕生日をこのメンバーで迎える事は無いなと僕には確固たる確信がある。
「ハッピーバースデー、といっても、もう年取るのが嬉しい歳じゃないか、」メイドさんは三歳児のレディに語りかける。
 そうだ、人形も、僕らも、もう歳をとることで大きくなる事は無い。僕らはもう古くなる一方なのだ。

 二十歳のときまだまだ自分は若いと感じた。けれどもそれから、一年ごとに僕は少しづつ老いて少しづつ疲れていった。
 でもその代わりに、「生き方」みたいなもの覚えて、年を取るたび僕は利口に生きられるようになった。
 だから、僕は歳をとることを辛いとは思わない。そう大した感慨なんて無い、でも、ただ淋しかった。
 昔仲の良かった友人と疎遠になってしまったような感覚かもしれない。そしてこれからも歳をとるたび、僕は利口に成って淋しがり屋になってゆく。それは目の前でビールを飲んでいるメイドさんもきっと同じはず、彼女は僕と離れてもちゃんと生きていけるだろうか?
僕とメイドさんは恋人同士ではないけれど、一緒に暮に暮らしている以上、我々は家族といえなくもない、家族は血のつながりじゃないのだ。だから愛はないにしても、どこかで互いを心の支えにしているような気がするし、現に僕はそうだ。



9月1日(土)10:42 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

第五章、家庭の洗濯機⑦



 徒歩の帰り道は丁度いい酔い覚ましになる。僕はあまり酔っていないから、メイドさんに何も話しかけたり出来なかった。メイドさんもあまり酔っていないから、僕に話しかけてきてくれない、いつもこんなふうに僕らの関係は、アルコールが不十分だと全く進行しないのだ。
 そして最近、僕ら二人は互いにアルコールをある一定のラインで控えるようになった。二人で「もう若くないから飲みすぎないほうがいいね」と言い合ってカモフラージュしているけれど、結局、僕らに親になる勇気は無いのが本当の理由なんだと思う。

そう、出会いという非日常から、引越しを経て、何とかルーチンワークを作り出した、この日までの僕等の生活は、何とかホースで渦の中から出されそうでも歯を食いしばって渦から離れないようにしがみ付く水の塊だった。
でも、サイホンの原理は、重力とか、大気圧とかそういう凄い強力な力が働いているのだ、努力とか根性で何とかできるもんじゃない。

いつものボロマンションに帰ると、管理人室の前で、管理人の奥さんが僕らを呼びとめ簡潔に述べた「正式に取り壊しが決まったんですよ。」
このマンションが激安な理由。それは再開発が周りで進み、ここも何時壊されるかわからないそういう不安定なところが所以なのだ。

頭の中の洗濯機に、管理人のおばさんは強引にホース突っ込んだ。ホースの先から水が飛び出してくる!
メイドさんの口にはその水は溜まって凄い内圧だ、耐えかねて彼女は口を開いた「コンビニ行ってこよう、ビール買い込まなきゃいけないんだ!」彼女は走り出し、僕はそれを追う。
 コンビニの冷蔵庫は密閉型、よく冷えてるビール。そうそう、僕みたいな人間は忘れやすいから、こうやって酒を飲めば、そういう陰鬱なものは吹き飛んでしまうんだ、きっとそうできない人たちだけは、哲学をやり続けていられるんだと思う・・・
「バカっ、今はそんな場合じゃないでしょ、冷えているやつ買い込んで家の冷蔵庫にしまったら、今度はスーパーに行ってケースで買って、やる事はいくらでもあるんだ。」

水のすっかり減った洗濯機。水は減った分、軽くなってしまったためか、動きはどんどん大きくなり、どんどん波は強くなっていく
洗濯機の中の残りわずかな渦(それもこれだけ強く回っていたら、水が外に漏れ出して、もう長くは維持できそうもない)の事を思いながら、ビールの入った袋を抱えて家への途中、空を見る。

今にも雨が降りそうだ、まだスーパーにも行かなきゃならないのに、雨はずざああああああって、降ってくるんだよ、ずざああああああって、水が流れてゆく、ずざああああああっざぶざぶ、洗濯機が回る音、雨のお陰で洗濯機の中には水がいっぱい。
そういえば、一緒に暮らすようになってから驚いたんだけど、メイドさんは意外と気にしないほうなんだな、僕の下着も自分の下着も関係なしに洗濯機に放り込むんだ。

 ずざああああああっざぶざぶ、洗濯機の中で絡み合う主人とメイドさんのパンツ。

 ずざああああああっざぶざぶ、渦の中には愛がいっぱい!



8月28日(火)20:59 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理


(4/11ページ)
最初 1 2 3 >4< 5 6 7 8 9 10 最後