兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



2007年7月21日を表示

第一章、『詐欺師姉妹』③



僕は、帰りの電車の中、手が火照って仕方なかった。何となく彼女なら僕の気持ちとか趣味とか解ってくれる気がした。それにあの営業スマイルは何時でも出来る代物じゃないだろう、何時もあんな笑顔していたら、頬っぺたが筋肉痛になってしまう。そう、あの笑顔は僕だけのものなんだ。そんな素っ頓狂で自分勝手な妄想をしてしまう。

これは、ろくに女性と関わらない、内気な学生が良くする妄想だよ。水疱瘡みたいなものさ。それは解っているけれど、それは承知していても、その夜のオナニーはいつもと違って、意欲的で、沢山出た。



次の日、日曜日だったので、朝から彼女の店に連絡を入れる、なかなか決心が付かなくて、携帯電話のボタンを何度も押し直した。ボタンを一つ押すごとに、心臓がドキドキして破裂しそうだった。でも、破裂する前に何とか最後のボタンを押すことが出来て、「お電話ありがとうございます。」と明るい声を聞く。
あの、と呟くと「この声・・・昨日の学生さん、ああっ、うれしい、本当に連絡してくれたんだ!」丁度、電話に出てくれたのが彼女で良かったと心から安堵する。
「あの、作りたいものが決まったんだ、恥ずかしいけど、笑わないで欲しいな」と僕が言うと「ふふふ、恥ずかしいもの作りたいんですか?笑いませんよ、大切なお客さんですもの」と彼女。

「で、何を作りたいんです?」
「メイドさん」
「ぶっ、」
電話機の向こうが何か曇り空になった感じ。
「いいんですよ、早い話が、女の子のお人形でしょ、材料の候補、見繕っておきますから後で来て。」

プチッ

電話は切れてしまう。最後はちょっとヨソヨソしかったな、人形作りませんかとか提案して置きながら、何だよと少し思う。
でも、準備しておくって言ってたし、僕はわざわざ準備してもらっているところに、みすみす赴かないほど、度胸も据わっていない。仕方なく出かけることにする。まさか、入店早々、店中で僕が、店員達の笑いものにされるって事は無いだろう、資本主義社会の店舗でそういうことはあり得ない。影口ぐらいは言われそうだけれど。



店内は、昨日とほぼ同じ込みようで、特に込んでいるふうでもない。やっぱりショッピングは平日に限る。
「お客さん、待ってましたよ。」と彼女が寄ってきた。「レジ脇のスペースに置いておきましたから。」彼女の指差した方向を見ると、大きなダンボール箱が床に寝そべっている。品物は自分で選ぶ主義だけれども、手芸店に居る男なんて、少ないし、色々物色すると周りの人に大体、稀有な眼差しで見られることが多いから、選んでおいてくれた事は、少しだけうれしい。彼女は善い店員だ。
「中身は、一応、私の厳選したものです。お客さん学生だから、あんまり高いものは避けたつもりですけど、拘るべき所は拘りました。箱は閉じてありますけど、中身に何が入っているかは、箱の上のメモに書いておきましたから参考にしてください。商品を確かめたければ、私がお供して箱の中身と同じものを、見せて差し上げますが・・・」語尾はとても弱弱しい。

 「大丈夫、専門家のあなたを信じてますよ。」と僕は言った。一刻も早く此処から抜け出したい、彼女の目の前で、これ以上の醜態を曝すなんてゴメンだ。
僕は一言彼女にお礼を言って、レジを済ませて、大きなダンボールは配送してもらう事にした。あの大きなダンボールを抱えて、店を後にする、惨めな僕の後姿を彼女に見られるなんて耐えられない。
 僕は、姿勢を整えた、頭の天辺から紐で、空から引っ張られている感じに、背筋を伸ばして、僕は店を去った。彼女が僕の後姿をちゃんと見ているか少しだけ知りたくなったけど、怖くて振り向く事なんて出来なかった。振り向いたらきっと、厄介ごとが済んで、彼女はせいせいしたような顔をしてるだろう。

 「クレームに成らなければいいんだけど」とか口ずさみながら。



7月21日(土)23:49 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理


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