兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



2007年7月20日を表示

第一章、『詐欺師姉妹』②



あの日、僕は何時もの様に、街でメイドさんを待っていた。メイドさんは何時も待ち合わせの時間に遅れる事は無いのだけれど、その日は十五分ばかし送れて現れた。
まあ、遅れた事をとやかく言っても仕方ないので、その後居酒屋に直行した、メイドさんは何時もより機嫌がよく、お酒を子気味よく注文していく。僕も、お酒は好きなので、これまた引っ切り無しに注文する。
二人とも、いい感じに酔った時だった。酔いのせいか僕はふと「どうして今日は遅刻したんですか?」と、つまらない事を尋ねてしまった。そして、不幸な事にメイドさんも酔っていたためか、そのつまらない質問を聞き流さずに、答えてしまった。
「ご主人様と、ホテルにいたんですぅ。」
「ホテルって、その?」
「もう、ですから、エッチしてたんですよ。」
何かが、ストン!と落ちたような気がした。

そうだ、今までも、メイドさんと会って話す時に、メイドさんの主人の話が出なかったわけではない。いやむしろ、メイドさんから、メイドさんの主人と同じ男性として、主人との付き合い方とかの相談にもたびたびのっていたのだ。そう僕は、メイドさんに主人が既に居る事を確かに認識していた。
それなのに、そのときのメイドさんの言葉は僕をつまらない幻想から、強く、そして残酷に突き放した。

今、目の前にいるメイドさんは、まさしく僕の友人であるはずなのに、まるで急によそよそしくなった感じ・・・いいや、それ以上に嫌悪感、嘔吐感か?
セクシャルを切り離しての友人としての付き合いは、とても神聖なものだというのに、淫猥な幻想をやっと忘れ、悟りを得た修行僧である僕の目の前で、メイドさんは、みすみす自分の野生をこれ見よがしに、突き出してくるのである。これは何という仕打ちだろうか。
今、目の前に居る僕の無垢な友人は、数時間前まで、友人である僕が顔さえ知らない男と肉欲に浸り情事を貪っていたのだ!
そうだ、これまで僕の中には、友人であるメイドさんの裸体のヴィジョンはおろか、セクシャルなイメージすらなかったというのに・・・今では、メイドさんを見るたびに、色情狂患者を見ているようで恥ずかしくてたまらない。不可逆的に、友人を失った僕の心はにわかに憤る。

そして、何より許せないのはメイドさんが、密室で情事に耽っていた事だ。まだアダルトビデオに出演していたという方がショックが少ないはずだ。密室の情事は何処にも開かれていない、そこに他人の入る余地は無いのだ。
僕は言いようの無い疎外感に襲われる、これは男性特有のある種の孤独感に近いのかもしれない、その後メイドさんと居酒屋で数時間話したはずだけれど、何を話したか全く覚えていない、酔いのせいかもしれないけれど、本当は、メイドさんなど最初からここに居なくて、僕はずっと独り言を呟きながら飲んでいただけなのかもしれない。

それを最後に、僕は、メイドさんと会うのをやめた。あまりにも複雑すぎる吐き気から逃れたかったから、そして、僕は、本気で女を買うか、強姦でもしようかと思った。でも、そこまでするほど僕には度胸がない。
そう、僕は何事も無かったように振舞うしか他なかった。



そんな、自分の感情が上手く制御出来なくなりそうな時、僕は決まって何か創りたくなる。その頃、丁度僕は母親から、お下がりのミシンを貰ったばかりだったから、それを使って何か作ろうと思い、大きな手芸店に足を運んだ。
手芸店に着いた僕だったが、何を作ろうとか明確には考えていなかった。よくそういうところに行くと、ハギレとかのワゴンセールをやっているから、それを買い込んで、鞄かシャツでも作ろうか?そんなふうに考えていた。

でも、その日のワゴンセールの商品は、どれもこれも僕に物欲を思い出させてくれるようなものは無かったので、仕方なく帰ろうとした時「何かお探しですか?」と店員。
僕は、心が弱っていたせいか、理由も無く、その店員に不思議な親近感を持ってしまった。何か作ろうと思って悩んでいるんだと話すと、その店員は、どうやら縫いぐるみとか、人形が専門のようで、「お客様は、お人形を作ったことは御ありですか?」とたずねてくる。
いい年した野郎に「お人形」は無いだろうと思ったけれど、偶然にも僕は昔から、時々縫いぐるみを作ることが時々あった、家は僕が小さい頃、貧乏であまり玩具を買ってもらえなかったから自分で色々と作ったのだ。

縫いぐるみなら、少しは。僕がそう呟くと、「そうですか!うれしいなぁ。男の方でそういう人、少ないでしょう、話が合いそうで良かった。」と、急にフレンドリィな接客の店員。僕はどちらかといえば、堅苦しいのより、こういう接客の方が好きだ。
「特に作るもの決まってらっしゃるんですか?」
「いいや、特に決めてません。」
「それなら断然、あなたの好きなものを作るべきですよ。何が御好きなんですか?」といわれても、急には出てこない、ちょっと前なら、迷わずこんな大衆の面前でも「メイドさん」と答えていたかもしれないけれど、今はそんな気分にはなれない。

「いや、やっぱり次の機会にしますよ、」と僕。すると店員は、凧の紐が切れて、どうすればいいのか解らない子供のような顔で「いや、あの、でも、思い立ったが、吉日ってやつですよ、そうそう、昔からそう言うでしょ、だから、ねえ、やっぱり作りたいときに作らないと、ずっと作れないままになって、良くないんだと思うんですよね、ほら、お客さん、学生さんでしょ、今だけですよ、ちゃんと作れるの、だから、作っといた方が、ほら、将来のためって言うかですね、後々人生の糧に成ると思うんですよね、ね。」と一息で言い切ると、僕の手を掴んで、手のひらに自分の名刺を握らせた。
「今日じゃ、駄目だって言うなら、明日でも、明後日でもいいんですよ、でも今月中がいいな、ノルマが厳しいんだわ。いつでも連絡してね、待ってるわ。」彼女は、にっこりと笑う。
こんな素敵な営業スマイル見たこと無いと僕は感心した。そして彼女は名刺を握った僕の手を両手で包み込んでくれた。



7月20日(金)10:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理


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