兄目線でアニメ
 
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2007年12月5日を表示

トモダチ倶楽部の崩壊 2

ある日の事です、トモダチ倶楽部の代表を務めていらっしゃるH氏の提案で、彼等は大江戸線飯田橋駅のホームと出口に通ずる通路の一部を間借りして何時ものように集会を開く事になりました。飯田橋という街は、たまたまメンバーの中でも最年少のM氏が暮らしている神楽坂に程近く、彼はその日ペットのオウムを鳥篭に入れたまま連れてきて、他のメンバーたちの前に掲げて言いました。
「このオウムこそ、我々トモダチ倶楽部のマスコットにしようと僕が調教したオウムなのです、どうぞその素晴らしい言葉をお聞きください!」そうM氏が宣言するやなやオウムは待ちきれなかったとばかりに歌いだします。

「コンニチハ、トモダチ、トモダチ、ワタシノ、トモダチ、コンニチハ、トモダチ、トモダチ、トモダチ、ワタシノ、トモダチ」と、オウムは歌い続け、M氏も実に誇らしげな表情でオウムの歌に聞き入り目を瞑って相槌を打ちます。地下の通路内はオウムの声だけが響き、これが永遠に続いてゆくのではと、そこにいいた部員達は思いました。
 しかしここは駅構内です、駅に両国方面行きの電車が着くと、その歌も直ぐに雑踏に消し去られます。何とか呪縛から開放されると今まで息を潜めていたメンバーたちの中でも、最も血気盛んなK氏が最初に口を開きました。
 「ふん、オウムに友情を語らせるだなんて、お前は今までの我々の議論の内容が全く理解できていないんじゃないか?」思いもしない批判にオウムの声に聞き入っていた、M氏は、その穏やかでった表情を急変させ、憤った様子で反論します。「バカ言わないでください、友情というものが解ってないのはあなたの方じゃないですか!このオウムは僕等に友達として挨拶しているんですよ、友達として挨拶してくる相手が友達じゃないなんて、そんなことあってたまるか!」
 「馬鹿いっちゃいけない、友達というのは、挨拶とか、言葉だけで成り立つものじゃないんだよ、大切なのは心さ友情の有無さ。だから無口な人間同士でも友情は成り立つんだ。」
 「馬鹿言ってるのはあなたの方ですよ、態度に表さなきゃ、友情があるかどうかなんて解らないじゃないか!」
 「ほほう、態度で全て決まるのなら、もし相手が敵意を持っていても、自分に対して友達としての態度をとるのなら友達となうだろう、これはおかしな話だ。」
  二人の言い争いは次第に熱を増してゆきます、この状態を見かねて、普段は殆ど議論にも口を出さず進行役に努めている、リーダーのH氏も二人の中に割って入ります。「おいおい二人とも、もうこの辺にしておきなさい、議論をすることは結構だが議論には議論のルールというものがあるんだよ。」彼の仲裁でK氏は頭に血が上っていた事を反省しますが、まだまだ若いM氏にはそんなH氏の言葉は届きません、
「全部態度なんだよ、どんなに自分に悪意を持っている相手だっ、困っているときに助けてくれるのが友達さ、我々は友情についての議論がしたくて来てるんじゃない、友達についての議論がしたくて来てるんだ。それに友情だって同じことさ、友情が向うに在るか無いかなんて結局は相手の態度から推し量ってるだけじゃないか、だから人はどんなものにでも愛着を持てるのさ、たとえ人じゃなくてもね。それにこのオウムはあなたと違って少なくとも僕に敵意は持っていないでしょう。」

「お前は、人間の感情の中でも最も崇高な友情を愚弄するつもりか!」と、一度落ち着いたK氏の頭に再び血が上り、ついに彼はM氏に手を上げてしまいます。頬を殴られ倒れたM氏の胸に今まで大切に抱えられていた鳥篭は、その衝撃で彼の手から離れると放物線を描いて宙を舞った後に通路に叩きつけられました。
「コンニチハ、トモダチ、トモダチ、ワタシノ、トモダチ、コンニチハ、トモダチ、トモダチ、トモダチ、ワタシノ、トモダチ」落下の影響で鳥かごの扉が開いてしまったのでしょう、オウムは鳥かごから脱出し、狭く人で溢れた通路の中を飛びながら歌い続けます。

その光景はとても不思議な説得力がありました。当時トモダチ倶楽部に所属していた私も含め他のメンバーもそれを感じたらしく、その場に居たたまれなくなり一人また一人とその場を離れて行きました。私は一度地上に出て、JR線に乗り換えることにしました、空中に立てられたホームで三分間電車を待つと黄色い帯の中央線が到着し、私はそ知らぬ顔で電車に乗り込み、窓際に立った次の瞬間でした、地下道の入り口からオウムが一匹飛びたって行き間もなくM氏がそれを追って飛び出しました。
「ああ、危ない。」私が呟くと同時にオウムが飛び去った、トラックが絶え間なく走っている車道にM氏は侵入、轢かれると思った矢先に電車は動き出し彼は私の視界から消えていました。

 そして、それ以来トモダチ倶楽部の会合は二度と行われず今に至っています。だから、M氏がどうなってしまったかも、M氏のオウムが本当にM氏に敵意を持っていなかったのかという疑問も私には解らないままになってしまっているのです。



12月5日(水)22:15 | トラックバック(0) | コメント(0) | シュールレアリズム | 管理


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