第七章『人権問題、そして奴隷狩』⑨ |
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突然の衝撃。どうやら電車が急停止したらしい、慣性の法則で強化された重力と後ろに立っていた乗客の体が僕にのしかかってくる、どうやら女性らしい、柔らかさと湿度でそう判断する。 「ごめんなさい。」倒れこんできたのは紛れもなくメイドさんだった、僕の顔を見てほっとしたような表情で「これじゃまた帰れないな。」うん、そうだね、電車が止まってしまったからね、でも帰るだけなら僕らには二本足がある、大丈夫、そんなに大変な事じゃないと思う。 僕らは止まってしまった電車から降りて、暗いトンネルを歩き始めた、方向が合っているはずだからいつか家に着くはずだ。 歩き始めてからしばらくすると、すこし疲れたので一休みする事にしたけれど、休みたくても暗いトンネルにはベンチはおろか座布団さえない。二人で途方に暮れていると、例のポニーに引かれた自転車に乗る大きなヘルメットをかぶった頭だけの彼が暗いトンネルの向こうからやってきて、僕らの前で止まると自転車の荷台にくくりつけられた大きな籠の中の毛布を、受け取って欲しいと言ってきた、どうやら彼はこの毛布を届けるためにわざわざここまで来てくれたらしい。 地獄に仏にとはこのことだ、ぼくらは心から感謝して毛布を受け取るとそれに包まって寄り添って眠った。するとトンネルの中に朝が来くる。そう、待ちに待った朝が来るのだ。
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9月28日(金)21:39 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理
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