第七章『人権問題、そして奴隷狩』⑦ |
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| ああ、呼んでいるんだなと思う。中にはメイドさんが居るに違いない、どうせ自分のベットに帰れないのなら、メイドさんと一夜を明かすのも悪くない。 そして僕は、永延と裏切りの行為に耽るのだろう。悲しい事に、まだまだ目は覚めてくれそうに無い。 問題は目が覚めないということ、夢からの目覚めの方法は意外と簡単で、そう夢の中で落下すれば・・・落下の夢は目覚めに続いているのだと阿部公房先生も言っていたっけ。 でも、近くにはあの、人を惑わせる公衆便所だけ、そうだ、セクシャルなの夢も又、目覚めに繋がっているんじゃないだろうか? セクシャルな夢・・・異性と抱き合おうとした瞬間、おわずけとばかりに目が覚めるのだ。では、メイドさんの誘いに乗ってみるのも悪くない。 しかし、まてよ、仮に目が覚めなかったら・・・あの寝覚めの悪い夢精という奴はごめんだね。
僕は、考え込んだ。考え込んでいるうちに夜が明けて、会社に行く時間だ、今日からまた訪問先が変わる。そこは嫌に忙しい店だ。屋台まで出して、今日は祭りか? 「いや、ご主人様の誕生日ですよ今日は・・・ああ、お腹空きましたね、お昼ご飯買ってきてよ。」 近くのスーパーのつくねハンバーグ餡かけ弁当は最高だ。そのスーパーの店員の一人は何かの事故か、先天性の障害か、体が肩から上しか無いのだ。よく生命活動を続けていられるもんだ、あのやたら大きな卵型のヘルメットに味噌があるのだろう。 そんな彼が、何と今日は自転車に乗るという、物珍しさにマスコミや野次馬が集まる。そうか、だから店も忙しかったのか。屋台も出るわけだ。 彼は自転車(ただし三輪)のサドルに縛り付けられて、口にハンドルから伸びた棒を咥えさせられる。これで操作は出来るだろう、しかし彼には胴体どころか足が無いこれじゃペダルが漕げすに進むことも出来ないだろう。すると、ぼろきれで作った縫いぐるみようなロバが現れて自転車に括り付けられる。ゆっくりと車輪は動き出した。 ぱちぱちぱち、無感動な大衆の善意の拍手が響き渡る。これだけ人が多くては、もう弁当は売り切れてしまったかもしれない。
それにしても、素晴らしい光景じゃないか!これがシュールレアリズムと言わずして・・・「やっぱり、ダダイズムから離れる事で初めて、シュールレアリズムは、新しい次元にいけるのかもしれない、そういう意味で日本のシュールレアリスト達は、思想が無い分、優秀ですよ。思想が技法を発展させてるんじゃなくて、技法が技法を進展させてゆく。」 そうだ、だから、阿部公房も村上春樹も、あと不条理コミックはフランスで大人気なんだな。ところでノーベル賞の賞金はいくらだったっけ? それにしても、まだ目が覚めない。そろそろ旅を終わりにさせたいのに、どうすればいいと思う? 「そんなこと、言ってないで、お客さんが沢山なんだから!」メイドさんはそう言う、そう言われても、今、僕の手の中にある商品にはバーコードがついていない、これじゃ、レジを打ちたくともどうしようもないじゃないか。 僕は、まごついた。日はまだ暮れてくれそうも無いのに、電車の発車時刻だけは刻々と迫っているのだ。 ここはどうにかして逃げ出さないと、さてどうするか、僕は社員証を見た。社会人は学生と違って途中でサボって、ふけちまう事なんて出来ない。でも逆に、学生なら以外に簡単に何時でも学外から逃げ出して、家路に着くことが出来るのだ。
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9月26日(水)09:50 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理
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