兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



第三章、『TV泥棒』③



彼女の指先の前では、昼も夕方も糸も簡単に簡単に過ぎてしまい、窓ガラスの向こうは暗くなった。時計を見るともう午後八時近い。何か作ろうか?冷蔵庫の中には冷凍うどんがまだあったはずだ。
「作業に夢中になると、時間の感覚が壊れるんだ。確かにお腹すいたな。」僕は冷凍うどんを昼間作った鍋の残り汁に入れて鍋焼きうどんを作った。彼女は食べながら、考え事をするような目で人形を見ている。
人形には既に手と足が縫い付けられ、尻の丸みをつけるパーツも足と供に付けられている。後は胸と胴体部分に皮膚といえる手足と同じ、肌色の布を縫い付ければ、人形本体は完成だ。

「もう少しなんだ。今日は完成するまで居るつもりだけど。」食事を終えると彼女は直ぐに作業に戻った。僕は土鍋を洗い終えると、人形に着せるための服作りを始めた、人形自体が怖くても、人形に着せる服は怖くない。まるで女性恐怖症の男が、女の服にだけは特別に執着を持ち、女装趣味に走ったような境遇だ。
フェティシズムとはやはり無機物に愛を感じる僕のような人間にこそ相応しい感性だ。

それからというもの僕らは互いの作業に没頭し、会話もしないので、狭い部屋の中に響き渡るのは、人形の服を縫うミシンがけの音だけだ。
一定のリズムが空間を支配する。しかし、この均衡のとれた時間が何時までも続いてくれるわけじゃない、夜が更け、次の日になったあたりで彼女は作業を終える。

ベツトに子供の背丈ほどの全裸の人形が寝そべっている。背丈は子供だというのに、胸や尻の形は女のもので、思春期の男が求める象徴的な形といえるかもしれない。
「さあ、帰ろうかな。」
「いや、こんな夜に女性一人で外に出るのは危険というものさ、電車だってもう殆どないし・・・。」
「でも、ここに居た方が、危険な気がするな。あなた、私に気でもあるんじゃない?」彼女は、からかいを全く含まない抑揚の無い言葉遣いでつづける「あたしは、博愛主義者なだけなんだよ。」
「君こそ勘違いしている!」僕は彼女の言葉に憤る。そりゃ今日は朝から色々優しくされたり気を使わせたりしたかもしれない、そのことで僕が彼女に何かしらの好感を持つという事はありうることだ。けれども、僕が君に気があって、しかも手を出しかねないだなんてそんな発想の飛躍は止して貰いたいもんだよ、いやむしろ君のほうが僕に気があるんじゃないのかい?
今朝だってキミは僕の夢の中までぬけぬけと侵入して・・・知ってるかい、精神分析の医師やイタコ巫女、占い好きのOL達の間で囁かれているうわさでは、夢の中に知り合いが出てきたときは、夢に出てきた相手の方が夢を見ている相手に会いたがっている証拠なんだとよく言っているじゃないか。
 「やだ、自意識過剰もいいとこ。それに今朝の夢ってことは・・・あなたはあたしを抱いた夢で夢精したってことか、ゾッとするな。」
「だったらどうだって言うんだよ、気分が悪いのはこっちの方さ、夢の中だってキミは僕を騙して交わろうとしてきたんだぞ、僕は自分からキミを抱いたわけじゃないんだ、逆レイプもいいところさ。確かに、君がその気なら、僕もぞんざいに拒絶するなんてことはしない。でも条件があるよ、僕は無機質にしか性的欲情を示せない体質なのさ、ダッチワイフの夢で発情するほどだからね。よって君と交わるためには君に人格を放棄してももらわなければならないんだ。いや難しい事じゃないよ、君もお気に入りのそのメイド服、それを着て僕に擦り寄ればいい、胸を僕の腕に押し付けて、唇を頬に寄せる。君はもう奴隷で、僕の所有物だ、それだけでもう後は、原始の時代からオスとメスが繰り返してきた、プログラムに基づいた行動が僕らを待っている。けれども、ここでも誤解して欲しくは無い、あくまでも僕から君を抱こうなんて決して考えちゃいないんだ。」
「無機物が好きなら、ベットの上のあの子と交わればいい。」
「バカいっちゃいけない。」そう口では否定しながら、今朝の夢の内容に背徳的なものを感じつつも僕は続ける「この娘は僕ら二人の子供みたいなものじゃないか、僕は近親相姦の趣味は無いね。」
「ははは、あたしはあなたの妻か、面白い。妻なら一緒に寝るのもいいかもしれない・・・お風呂借りていい?」
「寝巻きはどうするんだ?ベットだって狭いじゃないか、二人で横になんかなったら相手が邪魔で寝られたもんじゃない。」
「裸で、重なって寝なければいい。」
「君、もしかして、てんびん座かい?」
「ええ、何か不都合でも?」
「母親がてんびん座でね。てんびん座の人間って、移り気が激しいんだってさ、何時も右と左に揺られて迷い続けるそうだ。」



8月4日(土)14:36 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

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