兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



第一章、『詐欺師姉妹』④



次の日の月曜日、荷物は届いた。
狭い下宿先には大きすぎる荷物、メモを見ながら、箱の中身とレシートを確認する。
そうさ、もう済んだ事は忘れよう。こういうムシャクシャも、何か創造していくうちに忘れるもんだ。そうだよ、もともとそのために、何か作ろうとしたんだったな。
僕は、頭の中で設計図を作り始める、布の面積や綿の量を考慮しながら、どれくらいのサイズになるか考えると、縫いぐるみ作りに慣れた人なら、だいたいこれくらいだと、見当が付くもので、僕は早速、カレンダーや広告の裏側にサインペンを走らせて、簡易的な型紙を作った。
我ながら、物を作ることに関しては、天才とは言えないまでも、ちょっとした才能ぐらいはあるんじゃないかと思う。

さて、型紙も作ったことだし、そろそろ、布を切ろうかと鋏を構える。ここでミスしたらまた、あの店に行かなきゃ行けない。別にあの店でなくても売っているかの知れないけれど、同じ色、同じ質感の布を、他の店で探すのは、僕の裁縫の経験上、かなり難しい事だ。
緊張する。布は一本一本の糸から作られる。いわば一次元の線を無限に重ねて二次元の面を作る感覚。この均衡の取れた面を破壊するのは簡単だ。でも、直す事は僕らのような素人には不可能だ。こういうところは、自然と似ている。僕らに出来るのは、正しく切り取る事、正しく加工する事、正しく壊す事。

手が少しだけ震えているだけで、手を中心にした末端である鋏の先は大きく揺れる。これでは綺麗な曲線なんて切れやしない、こんなところで緊張なんて全く自分というものが嫌になるけれど、あと三十秒もたてば、もしかしたら止むかもしれないので三十秒くらい待とうか、そう思ったときだった。

『ピンポン』

心臓中の血液を逆流させるような電子音。鋏や包丁を持っている時は勘弁して欲しい。続けて『ピンポン』とまた電子音。
「はい、今出ます」と僕。部屋は散らかっているけど、玄関先で事を済ませれば問題ないだろう。僕はドアをゆっくり開けた。

「あっ、やつぱり男の人、めずらし。」とドアが開かれるのと同時に、彼女は僕の顔を見て言った。昨日僕に沢山、布や綿を売りつけた彼女。今日は少し沈んだ表情。それにしても何で僕の部屋を知っているんだ?僕の頭はフリーズした。
「あ、そうだ。私、手芸屋の店員じゃないですよ、あの人は姉で、あたしは妹。よく似てるって言われるんだ。性格は似てないけど。」と彼女は言った。

よく解らない話だ。僕がよく解らないくらいだから、この作品を今読んでいるあなたは、もっとよく解らない話だと思っていることでしょうね。
確かにこの作品は、シュールな所が多々これからもあります。しかし、こういう寓話的でない、少し現実味のある奇妙な情況はあまりよい状態とは言い難いということは、なんとなく動物的勘という奴が警笛を鳴らして僕に必死に知らせようとしている。
こういうのは所謂サギみたいなものなのかなと僕は思い巡らした。美人局とは違いそうだけど、ウチの家系の男たちはよくサギに遭うから気をつけないと。

「固まってないで、とりあえず部屋に入れてくれます?」と彼女、これは、ますます詐欺っぽい、女の子を自室に入れてしまったら、向こうの思う壺だ、後でどんないちゃもん付けられるか解ったもんじゃない。
「いや、ほら、よく知らない人を部屋に入れるのは良くない事ですから、あと部屋も散らかってるし。」
「姉に買わされたものでしょ、今のうちに返品、クーリングオフした方がいい、姉はよくこういう汚い商売するんだ。ノルマ、ノルマって言って、営業成績一番の癖に・・・騙された人なんてほっとけばいいと思うけど、身内の事は身内で片つけないと、寝覚め悪くて、ほら、一緒に店に行こう。」
どうやら、彼女は僕をだます所か、僕を救いに来たらしい。でも彼女が薦める救助法では僕は救えない、僕は心に開いた穴を買い物では埋められないんだ、代替物を自分で作らないと救われない面倒な人間なのさ。

僕は、昨日買ったものを、店に戻す気は無いとハッキリ彼女に言った。

「よくわかんないけど、解る気もする。」と複雑な表情で彼女。「あなたの自己実現には、創作活動が必要なんだろうね。でも、あなた学生でしょ、万を越えた額なんて、学生には大事なお金じゃない。あれだけあれば、一週間ぐらい暮らせるでしょ?」
「飲み会で、多めに飲んだと思えばいいのさ。僕は、お酒好きだし。」
「へー、飲むんだ、あんまりそう見えない。」
「よく言われる。そんなに幼く見えるのかな?でももう、二十歳過ぎてるから大丈夫。飲みすぎて新橋の植え込みの中で寝てた事だってあるよ。」
「年下かと思ってた・・・実は私も飲むんだ。そうか、飲むのか・・・」ちょっとだけ考え込む彼女。眼鏡の中で目玉が金魚鉢の金魚みたいに動いて楽しい。「じゃあ、せめてものお詫びに、一杯奢らせて、それで話はチャラ。」
「そこまでしてもらわなくてもいいよ、僕は市場経済で、正当に君のお姉さんと売買行為をしただけさ、何か奢ってもらう義理は無いね。むしろ、わざわざ心配して尋ねてきてくれた君に、ココまでの交通費も渡せない自分が恥ずかしいくらさ。」
「そんなこといい、家近くだし。それに、あたしは慈善活動が向いているだけ、言い方は悪いけど、可哀想な人を助けている時の自分て素敵だと思う。あなた何飲む人?」

其処まで言うなら、と僕は彼女の誘いに乗ることにした、何だかんだいって、お酒を勧めるところが詐欺っぽく思えたが、昨日の買い物で今月は酒を買う余裕は無かった。餌が欲しくて付いて行くのは畜生の性。酒が欲しくて付いていくのはアル中、学生の性なのだ。



7月22日(日)09:06 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

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