兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



第二章、『脱皮』③



次の日、彼女は九時半には、僕のところに来た。僕は朝飯の最中で、彼女は食卓のもう一つのイスに腰掛ける。僕は留守番にあたって、部屋の設備について飯を食いながら説明し、外出時はこれを使いなさいと合鍵を渡した。
「帰りは夕方六時過ぎかな。」
僕は朝食を終えると、そそくさと出かける準備(通帳と印鑑やを鞄に入れることのは、もちろん忘れない、パソコンにはプロテクトもかけてある。)をする。これで別に盗られたり見られたりして困るものも無くなった。決心をつけて出かけることにする
 
「いってらっしゃい。」久しぶりにそんな挨拶をされた。



学校の帰りに、友人のKが久しぶりに飲まないかと誘ってきたが、今日はそうは行かない。「今、彼女が家に来ててね。」と言うと、どんな冗談さと笑って「いつもそっちが強引に誘ってくるっていうのに、金欠か?」と茶化してくる。まあ、確かに財布の中の残金は恐ろしく少ないから、そう思われても一向に差し支えないのだけれど。「すまんね。」と言って家路に着く。

Kはとても淋しそうで、今にも吹き飛んでしまいそうだった。でも大丈夫、彼は僕が一緒に飲んでやらなくたっていいぐらい無駄に顔は広いのだから。



 下宿先のアパートの自分の部屋に近づくにつれ、洋風な鍋物のような香りが立ち込めてきている。匂いの発生源はどうやら僕の部屋らしい。
「ただいま。」
「お帰りなさい、ご主人様。」ドアを開けて、僕は己の目を疑った、彼女はメイド服を着込んでいたのだ。
紺色の水玉のワンピースにフリフリエプロン、頭にはヘッドドレス、おまけに手にはお玉まで、完璧にメイドさんの外見になっている。
僕は心の中が、急に照明で照らされたような感覚反面、ああ、またエプロンに皴が、アイロンをかけるのに一時間以上かかるんだよなと現実的なことも考えてしまう。

そう、それくらい現実味のあるメイドさん、喫茶店にいるメイド服のウエイトレスや、テレビアニメのものとは天と地ほどの差があるリアルさだ。
「着てみたよ。こういうのが結構好きなんだあたし。だから誤解しないで、君と交配したいわけじゃない。」
「ああ、構わないよ。僕も君と交配したいわけじゃないから。でも、エプロン洗濯したら、アイロンは自分でかけてね。」
二人は意味も成しに、少し笑った。夕食はジャガイモたっぷりのポトフで、それだけで満腹になった。「今日は、あなたの型紙で、腕、作っておいたから。」と彼女はベットの上に投げ出した、日本の小さな腕を指した。青いシーツの上に肌色の腕二本は、気持ちが悪いくらいに目立つものだった。

夕食後しばらく僕らは片づけをした、連日の作業で部屋は少々散らかっている。「後で着替えるから、浴室貸して。」と彼女。貸さなければ、彼女は着替えられず家からも出られない、女性と一夜を供に出来るなと思ったが、以前失恋した時に、泣き言を聞いてもらいに女友達に夜中ずっと傍にいてもらったことも同時に思い出す。
あの時は、夜中飲んでアニメ見て、それだけだった。僕にはロマンスは似合わないらしい。まあ、それならいいさと僕は彼女に浴室を快く貸してやった。
浴室に彼女が入り、着替えを始めたのか布がすれる音がする。僕はそれを聞きながら無意識に「まだ人形は完成していないのだから、チャンスなら何時でもある」と考えていた、「一体何のチャンスだっていうんだ!」僕は自分が自分で恥ずかしくなり本当にやる気がそがれていくような心持になった。



次の日、授業は午前中だけだったので、彼女にも午後から来てもらった。二人で牛どん屋の弁当を、かっ込んで作業を開始する。今日、彼女は「尻の曲線を出すパーツを作る」と言うので、僕は足を縫う事にした。二人は黙々と作業を続け、夕方前にはそれぞれの目標まで製作は終わり、服以外の全てのパーツがそろった。ここからは各パーツを繋げるだけだ。
「ここからは、二人で分担できないから、帰っていいよ。」と僕が言うと「駄目、あなたは洋服の型紙でも作って、私は胴体の仕上げをしたい。」と彼女はパーツ同士をつなげるベースである胴体を僕から奪ってしまった。これじゃ、言われたとおり型紙でも作るしか他に無い。
「この子は女の子なんだから。」と呟いて、彼女は人形の胴体の股間に、女性性器のような窪みを縫ってゆく。特に恥ずかしそうな表情はしないから、なんだか僕の方が、恥ずかしくなる。
女性というものは、どうして性に鈍感なんだろうか?

彼女はそれを、縫い終わると、「じゃあまた明日。」と言って立ち上がる。「今日はメイド服は着なかったね。」と僕が冗談を言うと、「明日は着る。」と彼女は答えた。
明日は各パーツの組み立てだ。人形作りの山場だ。彼女も朝から着て作業をしたいという。だから僕も明日は授業も少ない事だから、思い切って講義を自主休講して、人形作りに専念しようと考えていた。



7月27日(金)09:43 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

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