兄目線でアニメ
 
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2009年4月9日を表示

メイドとバナナ

さて、森に忍び込んではみたものの何処から探すべきなのか、禁猟区なので派手な真似はしたくないから、僕は大げさな装備も持たないで、せいぜい持っているものはといえばおやつのバナナぐらいなもので、でもやっぱりいざという時に頼りになるのがこういうものなのだ。
 案の定、泉の近くにそれが居た、水を飲みにきているのだ、どんな生き物でもそれが生き物である限り水を飲まずには居られない。それに加えて、僕が求めるあの生き物であるのなら水だけでは飽き足らず愛という奴が無いと生きていられないというのだ。

 僕は試しにバナナを差し出してみると、その生き物は長年の野生生活で培われた驚異的な嗅覚で十メートル以上も離れているというというのに僕の存在を認識し、今後自分がどうするべきか思考を始める。
 これは驚くべき事だ、もともとあの生き物は本能と命令に従う機能のみ備わっているはずであるのに、目の前の生き物は理解するという事をやってのけているのだ。自然の中で、物事を認識し、判断し、自分の有利な状態を作り上げる計算高さを身に着けた生き物と、狡猾な人間との我慢比べ、永延と続くかと思われるにらみ合い、この生き物とここまで対等な心理戦を行った人間がかつて居ただろうか?
 「なあ、別に敵意は無いんだよ、」声を掛けたが返事をしたりそぶりを見せたりなどの反応が無いところを見ると、どうやら言葉を知らないらしい、厄介な事になったものだ、これでは捕獲しても直ぐには使い物にはならないだろう。しかし、そういった手間さえも補って余りあるスペックがこの生き物にはあると僕は思い始めている。
 言葉という観念が無い生き物を手なずけるには食べ物を与えるのが一番だ、僕はバナナの皮を剥いて小さくちぎりその場に置いて少しだけあとづさる。僕が威嚇もせず穏やかな態度をとったせいかあの生物も警戒を緩め、僕がもと居た位置まで擦り寄って、僕が置いた餌に食らい付いた。その生き物はバナナという初めて味わう果物の甘さに驚きと感動を覚え、その味はもはや麻薬のように作用する。僕はまたバナナを千切り手のひらに乗せその生き物に差し出した。生き物にはもはや警戒心などというものは無く、中毒性を持ったその味に野生の神経さえも麻痺している。
 生き物が僕の手のひらの果実の欠片に直接口を付ける。唇が僕の手のひらに当たり柔らかな感触に、むしろ興奮さえ覚える。生き物もまた甘い味覚に興奮を覚え、二人の間の垣根が崩れてゆくのが目に見えるように解る。僕は一種の確信を持ってその生き物の頭を撫でる。するとその生き物は、その個体が森の中の生活で忘れかけていた、その生き物特有の本能を思い出したかのように、大人しい人形に成り下がり、僕に頭を垂れた。
 哀願・・・この愛玩動物は愛が無ければ生きてゆけない、だから寵愛を受けるためならどんな事でも行う。それがどれだけ自らを卑下する事でも、この生き物は行わずには居られないのである。僕は優しくその生き物の手をとって立ち上がる。すると生き物も僕に従って立ち上がる。この時点で僕とこの生き物の間にある種の契約が成立し、関係が完結した。あとはこの関係をどのようにして僕の周囲の人間達に納得させるか、そこが些細ではあるが、頭の痛い問題なのである。



4月9日(木)13:36 | トラックバック(0) | コメント(0) | 小説・文芸 | 管理


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