兄目線でアニメ
 
アニメに対する、視点、論点、あと,メイドさんとか、自作PCとか、鉄道とか酒とかな話。
 



第四章、『動物実験』⑦



 最初何処に行くのかなと思っていたが、どんどん彼女は市街地に向かい、果ては駅にたどり着いた。「これから電車に乗るんだ。」何故と僕が聞くと、「乗ってみれば解る」と、ただ微笑む。
その笑顔は少し怖いけれど、さっきみたいにへそを曲げられても困るので、僕はそのまま大人しく付いてゆくことにする。

 夕方近い車内は結構込んでいる。こういう満員電車で運ばれていると、まるで自分が奴隷か家畜のように感じられる。「車内混雑しておりまして申し訳ありませんグリーン車が空いております、グリーン車が空いております」世の中、人間扱いされるには、何処へ行っても追加料金が必要なのだ。
「ねえ、見てあのカップル」彼女の指のさした方向には、満員電車の中、抱き合っていちゃいちゃしているカップルがいた。男の方は女の尻を撫で女の方は仕切りに男に甘い声で話しかけている。
 「じゃあ、あれをお手本にやってみよう。」彼女は僕の手を取って自分のしりを触らせようとする。危険を感じ僕はとっさに手を引いて、彼女の思惑を阻止する。
「何のつもりだい、どさくさにまぎれて僕を痴漢の罪で脅そうって言うのかい!」
 「あたし、本当に信用されてないんだな。」
「信用以前の問題さ。」
「じゃあ、どんな問題だっていうんだい。別に遠慮する事はないんだよ。あたしそんな悪い人間じゃない。」何故か瞳を潤ませて懇願の表情。もしかしたら彼女は精神の露出狂、姦通を願ってやまない色情狂なのかもしれない。「そんな目で見ないで、男のにとって、どうしてこうなのかな。」
 「駄目なんだ。君の理論に乗っかってあげたいけれど、僕は男なんだ、最初は純粋なスキンシップをしようとしていても、きっと途中から、性的なものに雪崩れ込んでしまう、自信がないんだよ。」
「じゃあ、触んなくてもいいから、信用だけはしてよ、あたしは正真正銘、君のメイドに成ったんだから。話だけでも聞いて欲しいんだよ、悩みとかこう見えて結構あるんだ、あたしは何もたくらんじゃいない。だからもっと・・・」

問題は、簡単だった。メイドさんは、女である事に縛られて、僕は男であることに縛られていた。
 「私はそんなこと」そういう台詞を吐く所が、女であることに縛られているっていうんだよ。
 そうだ、時々彼女は、つまらない相談をしてくる。本当につまらない相談だ。相談にもならないその相談で、彼女が僕に求めているのは、答えや意見ではなくてじゃなくて、もちろん相槌でもない。
 ただ単に彼女は、僕に同情してほしいだけ、僕の意見や気持ち、ひいては人格なんて彼女にはどうでもいいことなのだ・・・いや、むしろ彼女は僕の性格を知っている上で、それを押し殺す事を要求しているのだ。

 女性は男ほど、もともと孤独ではないから、我々ほど孤独に慣れていないのだ。
理屈は解る。でも、納得できるはずは無い、僕は女で無いから、だから言い換えれば、ぼくは女でない事に縛られているのかもしれない。
 でも、それは彼女も同じ、彼女は男で無い事に縛られているんだ。そして、縛られている者同士はどうしても自分の窮屈さを他人のせいにしてしまうのだ。そういう時に僕はふと、二人とも、子供なら良かったと思うことがある。
 子供は女でも男でもない、中性名詞だ。彼等は縛られずに自由だから、僕らのような面倒は起こさないし、その逆に、僕らが思いもしないような残酷な事だって出来てしまう。

 彼女は、今日も泣いたりしなかった。そういうところは、女か男かなんて関係なくて、個人の問題なのだろう。「いいんだ、少し興奮していたんだ。ずるいやり方だとは思うんだよ、でも、あたしには頼れる人が他にいないし、君に警戒を解いてもらうには、どうすればいいのか解らなかったし、」僕らは電車から降りて、ホームを横断し、逆方向の電車に乗り込み家路に付く事にした、途中ホームでビールを一本買って、行きとは逆にスカスカの車内でそれを飲んだ。

外の風景を眺めながら呟く「男なんて、本当に最悪だな、時々僕は男っていう性に絶望してしまう事があるんだ。」
「それはこっちの台詞よ、台詞さえ取ってしまうなんて本当に男なんて最悪。」彼女の脳はアルコールに侵食され始めている。
「ごめん、そんなつもりじゃ、」
「いいえ、あたしが悪かった、ホント女って駄目なんだ。よく男の人は女の綺麗物扱いするけど、そんなことされると本当に窮屈な気分になっちゃう。」
一つの缶を二人で飲むと、一人分量が減って物足りないから、電車から降りて、駅近くの酒屋で、数本買い足して、もう一本、そして続けて何本も歩きながら飲んだ。



8月15日(水)09:23 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理

コメントを書く
題 名
内 容
投稿者
URL
メール
オプション
スマイル文字の自動変換
プレビュー

確認コード    
画像と同じ内容を半角英数字で入力してください。
読みにくい場合はページをリロードしてください。
         
コメントはありません。


(1/1ページ)