第五章、家庭の洗濯機④ |
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| 「男性的な考えだな。」 「そりゃそうだろう。僕は男だから、仕方ないさ。」 「仕方ないんだ?」と何か諦めたようにメイドさん。タレを混ぜる手が止まる。 「でも、そうかもしれない。日本的な結婚って、就職活動そのものかも、だって昔の農家の嫁なんて、相手の家の労働力兼、子作り担当主任みたいなものだもの。愛なんて二次的なものかもしれない。」
愛か・・・愛ってなんだろ?恋はした事あるから解るけど、愛は良くわからない。恋の進化系が愛なのか?よく恋は自分本位のもので、愛は相手本位のものだと言うけど、そんな工場で大量生産されたような、安っぽい理由でいいのかな?
「愛と恋の話なんて・・・私たちはそういうこと語り合う関係じゃないな。」なかなか酒も肉も来ないので、退屈に成ったのかメイドさんはあくびを一つした。 「そうだね」と僕。「ここは話を戻して、もう少し結婚について考えてみようか。」メイドさんもそれなら付き合わなくはないといった表情。
そういえば先月、実家に帰った時、母親に妹の事について相談された。母は、半年に一度ハンドバックを新調し、三ヶ月に一度、トートバックを買い足す人だ。そんなに早いペースでは無いけれど、彼女の鞄は増えていく一方だ。 両親の夫婦仲は、そんなに良くも無いし、そんなに酷くも無かった。父親は仕事が忙しく、あまり家に寄り付かなか無いくせに、四人兄弟の末っ子だったから、甘えん坊で、年長の叔父や叔母などの親戚にの前では頭が上がらなかった。それで母親もそんな父親に少し愛想を尽かしていた。依頼心が強くて楽するために結婚をした母親にとって、結婚後に発覚した、そういった父の本性は契約違反もいいところだったのだろう。そう、さっきメイドさんの言ったとおりでお互い何かしらの打算を持って結婚するのは、本来好ましくない事なのだろう。 まあ、そんなわけで母は相談事は父でなく僕にしてくるのだ。
母親は就職したばかりの妹の勤務時間が長いのに、配属先が遠いから家に帰るのは遅くなり、出る時間も早いから、疲れていないか心配だと零した。僕が見る分に、妹はそれでも何とか社会人として強くやっていこうと頑張っているように見えたから、別に其処まで心配しなくてもいいじゃないかと宥めたが、母は結局僕に「そうかもしれないけど、親の立場から見てると心配で心配で、」と繰り返した。 一応、僕も適齢期の男性の端くれだ。知り合いの中でも結婚したり、子供を作ったりしている人の話も聞かないではない、まだ生まれてこの方、恋人も出来た事の無い、家庭を作りたくてもまだ見当も付かない、少し出遅れを自覚している独身男性に『親の気持ちになって考えて欲しい』だなんて残酷な事(母親は僕がメイドと暮らしている事を知らない、知っていたとしても、僕とメイドさんはそういう関係ではないので、関係はないのだが)、よくも言えるなと思ってしまった。 でも、そんな事思っても、そこは「実家」で両親のテリトリー、一応大人しく聞き役に徹し、先月の帰省は父が仕事で出張し、妹も仕事で夜遅く寝に帰ってくるだけだったから、僕はずっと母親の愚痴を聞いて、年々健康のために薄口になる、お袋の味を噛み締めるだけで終わった。 ここまでの話だとまるで冷え切った夫婦や家族に聞こえるかもしれないけど、家庭自体は時々波乱はあるけれど、だいだい通常通りの運行が繰り返され続けている。
平坦な、冷えて落ち着いた日常が続いていくのだ。
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8月23日(木)01:04 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理
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第五章、家庭の洗濯機③ |
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連休も最終日、店内に客は疎らだ。その殆どが子供ずれの夫婦だった。僕らは、豚バラの五百円のランチ二人前と鶏肉のプレートと、そしてビールとサワーのタダ券で、アルコール飲料を四本頼んだ。 周りの家族は子供を囲んで、楽しそうに焼肉を焼いている。そんな中、二人きりの僕らはまるで出来損ないの大人みたいだ。『家に帰ればちゃんと人形とはいえ娘がいるんですよ』と言い訳しようと思ったけれど、まだ子供の娘を置いて二人で焼肉屋に酒を飲みに来る夫婦もやはり出来損ないといえるだろう。 隣に座った家族の女の子が、こちらに振り向いてニコニコ笑って手を振った。三歳児くらいだから、何があっても楽しいのだろう。 「休みの日はやっぱり家族連れが多いな。子供は可愛いよね。」 「子作りでもしたいんですか?」 「産んでくれる?」 「ちゃんと育ててくれる?」 「自信ないな、今の子供たちって大変じゃないか。小学生でも塾通い、一日12時間学習は基本らしい、過労死する子供も出ているそうだし、塾に行くのが嫌なら、カップルになって路上で遊びまわって性病を移しあうか、ぐれてバイクに乗ったり万引きするしかないからね。今じゃ引きこもって何もしない子供が一番健康だって話さ。」 「じゃあ、子供が欲しいだなんて、同居してる異性に言うべきじゃないね。」 「別に僕はそういうつもりで言ったんじゃなかったんだよ、子作りだけならサルだって出来る。僕は人間だからね、こういう風景見せ付けられると、結婚してみたくなるよ、だって結婚は契約だからね、契約は人間にしか出来ない高尚な事さ、子作りとは訳が違うんだ。」 「結婚ねぇ、ピンとこないな。」メイドさんは小皿を取って、それにタレとにんにく、コチュジャンを盛って混ぜ合わせている。 「そんなものかい、もっと憧れとかもってるのかと思ったよ。だって大体、結婚って女性のものだと思ってたからね。だって結婚がテーマの小説は殆ど女性が書いたり主役だし、マリッジブルーも女性の物だし、結婚式だってしたいと思うのは女性の方でしょ。だから、時々僕なんて、男の目線から結婚とか考えるとどうなるかなって考える時あるよ。」 「ははは、彼女も居ないのにそんな事考えてるの、笑っていい?」どうやら僕は馬鹿にされてるらしいな。でも、メイドさんが大きく笑うと、その豊かな乳房が揺れるから、それを眺めるとなんとも言えない穏やかな気分になって、怒りなんて忘れてしまう。 「笑ってもいいよ。この前僕の同期入社の女性なんかは、『結婚なんて大したイベントじゃない』とか言ってたけれど。イベントって祭りだろ、祭りは日常ではないから、つまり時間軸でいう『点』てことでしょ。でも僕は結婚ってのは日常、つまり『線』だと思うんだよね。」 「なるほど線か・・・日本のさ、結婚って打算的だから駄目。家事してもらおうとか、旦那の給料で暮らしたいとか、老後見て欲しいとか、そういうふうに楽出来ると思って結婚するから、楽できないと嫌ん成っちゃって、相手の事も好きでなくなったりするんだと思う。」 そうかもなと僕。 みんな小さい頃は、誰でも出来ると思っている結婚、確かに結婚の内実は誰にでも出来るような事だと思う。 でも、結婚にまで至る道は、結構な難易度だ。まず好きな人を探して、その好きな人に他に好きな人が居ないか、既婚かどうか調べたり、その人が、自分のことが好きか訊いてみたり、両想いだと解っても、デートという面接を繰り返して、それが上手くいったら、最終面接、相手の親に会って挨拶しないとならない。結婚って就職活動に似ている。
そうそう、ちゃんと就職活動しないと、いざ入社してから、その会社と自分がミスマッチだと気づいて、嫌な思いしたり、直ぐ辞めたくなったり。
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8月22日(水)09:15 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理
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第五章、家庭の洗濯機② |
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週末のお昼は、よくメイドさんと焼肉を食べに行く。ビールとサワーのタダ券のある焼肉屋に。昼間から飲むのは僕らにとっては結構普通の事だ。 僕は飲酒運転をした事が発覚したら、大変なことになる職業だから、僕らは其処に歩いていく、徒歩で十五分位だろうか、こんな具合に、僕らは週末二人で歩くようにしている。といってもウォーキングというほどのものではなくて、今向かってる焼肉屋や近くのスーパーとか八百屋とかカラオケ店ぐらいまでだけど。 それに、飲酒運転の防止という理由だけが僕等を歩かせているわけじゃない。 僕自身ただ理由も無く歩くのはどちらかといえば嫌いだ。時間がかかるし、疲れる。歩くぐらいなら、自転車に乗った方がずっと速いし疲れない。移動に使用する時間は少なければ少ないほど合理的というものだ。 でも、僕は何か目的地を目指して、一歩一歩いていくのは嫌いじゃない。 歩いて目的地に近づいている時、僕は僕の意思で死と戦っている気がする。この世の万物は何一つとして、安定を好まないはずは無いのだ。そしてそれは僕の体を構成しているたんぱく質も同じ。たんぱく質は分解されて、原始の海に帰ることを望んでる。
僕の体は僕の死を望んでいるのだ。
だから、僕にとって最大の敵は僕の体だ。その体の思う壺にならないように僕は歩いて、体を運動エネルギーと位置エネルギーで一杯にしようと努力している。 でも、歩くだけでは、とてもじゃないが退屈だ。だから目標として目的地が必要だし、連れがいればなお退屈しないし、こういうことをぐちぐち考えているうちに、大抵目的地の目の前まで来ているのだ。
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8月21日(火)22:32 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理
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第五章、家庭の洗濯機① |
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| 普通、日常というものには何らかの非日常が組み込まれている。身近な例で言えば、宝くじが当たったり、雷で隣の家の気が倒れたり、お祭り会場で昔のクラスメイトに再開しやけぼっくりに火がついたりとか、そういうのが日常というルーチンワークの円の中から飛び出した非日常というものだろう。 でも、そういった非日常もさっきの例で言えば、宝くじが当たって例えば家を買い、その家に住む始めれば、宝くじで得た大金は日常の中に組み込まれるし、雷で倒れた木の後に花壇を作ればそこに新しい日常の風景が出来上がる。劇的な再開を果たし、燃えるような恋をした元クラスメイトの二人も今じゃ結婚十年目、互いに日々の生活や家庭を支えあい、長男は来年小学校に入るという。こんな具合に、ぱっと空中に飛び出した非日常の雫 なんてものは、だいたい直ぐに日常という渦に再び吸収されて、いつしかそんなことがあったのかさえ忘れてしまう、そんなものなのだ。
だから僕も油断していたのだ、僕とメイドさん、そして人形。僕らの出会いは、かなり奇抜な非日常だった。でも日常の作る渦は宿命的に強力だ、いつか僕らも落ち着いて日常の渦の底の中心で、時々揺らぐだけの、そんな平凡な関係になれると信じていた。 けれども、よく考えてみれば、いくら僕らの出会いは非日常とはいっても、それが洗濯機の渦からはじけて飛んで直ぐにまた同じ渦に吸収される雫の様なものではなくて、外部からホースか何かで無理やり渦から、サイホンの原理とかで吸い上げられ、空に放たれたものだったのだとしてみれば、もう、洗濯機の中の何時までも安定して続く渦には二度と戻れないんじゃないだろうか?
何時までも何時までも行き場を求めて彷徨う雫。この空は何処まで何処まで落ちても底なんか無くて、僕は何時地面に叩きつけられるのか、気が気じゃないまま落下の恐怖を感じ続ける・・・これと似た不安定な感覚に僕は子供の時から時々苛まれていた。 なんと言えばいいか、良くわからないけど、急に怖くなる時がある、自分が死んだら何処に行くのか、それ以前にアミノ酸とカルシウムで作られた自分にどうしてこういうよく解らない心みたいなものがあるのかとか、そういうことを考えている今の意識自体、単なる悪夢みたいなもので、本当には存在していないんじゃないかとか、そういうことを考えると、さっきの洗濯機から追い出された雫の話じゃないけれど、よく言う暗い底の無い穴を落下し続けているような気になってしまって、怖くて怖くて、気持ち悪くなってしまう。きっと、大学で哲学をやったのもそういうのが関係しているんだな。
僕にそんな話を聞かされて、「何、ニヒリストぶってるの、」とメイドさん。 「僕がメランコリックな性格だって知ってるだろう。」 「O型の癖に。」 「血液型と性格は本来全く関係ないんだ、これは科学でも証明されている。女は生まれたときから女じゃないのと一緒さ、スカートを履かされて、赤いランドセルを背負ってピアノ教室に通うから、女は女らしい性格になるんだ。O型の人間も、O型のオーは大雑把のオーだって言われ続けるから大雑把になってしまうんだよ。」 「血液の話がしたかったの?」メイドさんは納まりでも悪いのかレースの付いたカチューシャの位置をしきりに弄っている。「いや違うと思う、何の話だったかな?」
「話してたらお腹空いた。ご飯にでも行こうよ、今週も焼肉にしよう。」
肉を食べるってことも、死から逃げるための積極的な武器になるだろう。近代になって肉を食べるようになってから、平均寿命も延びたわけだし。
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8月19日(日)17:42 | トラックバック(0) | コメント(0) | 私小説 | 管理
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今日は何の日? |
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| コミケの日ですね。
参加されている先輩には悪いのですが、最近仕事で疲れていたり、千葉はビックサイトから遠いいからとか、元々萌兄はあんまりコミケ向けのオタクではないので、今回も欠席するわけですが・・・
まあ、コミケに限らず、オタリーマンに成ってしまうと、休みが合わないで、大学時代の後輩たちにもなかなか会いにいけなかったり、休みがあっても、他の用事とか、休養を、その休みの中でこなしたりとか、色々あって難しいんですよね。
まあ、それでも、元気にやらねば成らないのが社会人でもあったりするんだなとか最近思うようになりました。
そんなわけで、結局コミケに行かない言い訳をこうグダグダ書いている時点で社会人らしくないのかもしれませんし・・・ホントの事を言うと、なんといってもね、あの行列が嫌いなんですよね、違う館に移動するだけで恐ろしく時間かかる、あれが本当に苦手だったりするんですよ、あとコミケで欲しいものが無いってのもありますね。
コミケ限定の、グラボとかサウンドボードとか、PCスピーカーとかあったら速攻いくと思うけど、無いからね、ていうか、PC自作マニア減ってるしね、オタクの中でもヒエラルキーが鉄道マニアと同じく低いしね、何ていうか、オタクの中でも格差ってのが最近あるよね。
オタクは、コミケに行って、同人誌買って、エロゲーして、アキバ行ったら、アニメやゲーム屋いって・・・そういうオタクが多いから仕方ないけれど、そうじゃない、日陰に居るオタクの事も解って欲しいのよね。
まあ、土俵の外じゃ、贅沢は言えないのですが。
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8月18日(土)09:45 | トラックバック(0) | コメント(0) | 漫画、イラスト | 管理
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